ニコと祐と夏休み

 ここ最近、たすくがずっと家にいる。

 なんでも、「夏休み」というものらしい。

 ずっと家にいるのは私的にはとても幸運なこと。だって、長い時間一緒に遊べるでしょ?

 でも、遊ぶ以前の問題がある。それは、たすくが全く私にかまってくれないということだ。

 今日こそ、何が何でも一緒に遊んでやる!


「ニャ、ニャワーン(ちょ、やめて、いやここ私の場所。やめ、やめてって)」

「……」

「ニャ(ああああああ!)」

 さっきから、たすくが私をノートの上からおろそうとしてくる。

 せっかくたすくの目に入って、なおかつ触られやすい場所を陣取ったというのに、たすくはいったい何を考ええているのだろうか。

「よけて」

「ニャ⁉(え、今なんて言ったの信じられないこの私がこんなにも近くにいるというのに!)」

 ノートにしがみついて必死に抵抗する私。

 しかし哀しいかな人間の力には逆らえない。

「ニャアア(ぎゃああああ)」

 あっという間に私はノートの上からおろされてしまった。

 そしてたすくは勉強をするのかと思いきや、部屋を出ていった。

 不愉快極まりない。

 少し嫌がらせをしてやろう。

「ニャッ、ニャッ、ニャツ、ニャッ(バカ、アホ、アンポンタン、猫見る目ない!)」

 嫌がらせというのは、 おそらくたすくが嫌がるであろう、行くところについていく、というものだ。

 しかも、1段降りるごとに心に突き刺さる悪意に満ちたメッセージ付き。

 これでさっき自分がした事の重大さに気づいて、反省するだろう。

 そう思って満足していた私だったが、その満足感はすぐに消えうせた。

 リビングに入ると、ものすごい形相のやよいがいたからだ。

 完全にスルーして通り過ぎるたすく。

 私もそれに倣って、その場を通り過ぎようとする。が。

「ちょっと待ちなよお兄ちゃん」

 たすくが声をかけられてしまった。

 たすくとともに、ギギギと首をまわして振り返る。

「なにが?」

 たすくがうんざりした様子で返事をしている。

「ニコのことにきまってるじゃん!」

「ニャ⁉(私ですか!)」

「なんでお兄ちゃんにばっかりなつくわけ? 拾ってきたのあたしなのに!」

 なにやらやよいはえらくご立腹な様子だった。

 そしてその怒りの矛先は、どうやら私に向いている。

 なんかたすくが私をかばうような発言をしている気もするが、ここのカーストはおそらく妹のやよいの方が上。

 あっけなくたすくは口論に負けてしまった。

「そういうことだから、今日はニコはあたしがもらうね」

 その言葉とともに、やよいがものすごい力で嫌がる私を持ち上げた。

「ニャ、ニャアア!(やめてええ! 連れて行かないでえええ!)」

 そんな私の訴えを無視して、やよいは歩いていく。

 ちらりと見えたたすくは、なんだか少し寂しそうな顔をしていた。

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