第3話 戦闘教育

――楽しすぎるな、これ。

唖然とした生徒たちの顔を眺めて、次郎はこみあげる愉悦を押し殺す。


「冗談だ」


次郎の言葉に生徒たちがホッとした様子を見せたその直後、


「だが半分本当だ」


再び目を白黒させる生徒一同。事態を飲み込むことが出来ない。


「あの…どういうことっすか」鎧兜姿の曽田弥彦が代表して問う。


「お前たちの体は現在、疑似ジェムの機能により武装され『ミニオン化』した」


次郎が金色の目をわずかに細めて説明を始める。げげっ!と曽田を始めとする生徒たちがのけぞった。


「ミ、ミニオンって…図書館内部に出現する敵性生命体ですよね?」

ゆるくウェーブした髪を三つ編みに結った、眼鏡の女子生徒が発言する。副委員長の福来ふくらいフクだ。

左手には薬瓶を持ち、研究者のような白衣を着ている。胸元を掻き合せているのは、その下がビスチェ型の衣装だからか。


「そのとおり。本来は『使い魔』という意味だ」

次郎はそう言いながら黒板に「ミニオン=使い魔」と書いた。そしてその後にもう一つ「イコール」を繋げて「冒険者」と書く。


〈ミニオン=使い魔=冒険者〉


「図書館内部において、ミニオンと冒険者に違いはない。ミニオンは図書館を守る役目を負い、冒険者は図書館を探索する役目を負っている」


そこまで言って次郎は生徒に向き直る。


「つまりミニオンは図書館の使い魔であり、冒険者は人類側の使い魔ってわけだ。実のところ一体一体のミニオンの能力と、冒険者一人ひとりの能力にさほど違いはない」 


パッと顔を輝かせて、生徒の一人が挙手した。

「わかりました!つまり私達に敵味方わかれて、ここで模擬戦を行うべしということですね!」


無藤碧子むとうへきこ。大きめのモーニングスターを握りしめ、ぶかぶかのヘルメットを被った小柄な女子生徒だ。つややかな長い黒髪が大人びた印象を与える彼女だが、言動は完全にいたずら小僧のそれだ。モーニングスターをバットのように振り回しながら叫ぶ。


「さーて、誰の頭をぶち割るべきです!?」


見かけによらず暴力に酔いやすいタイプのようだ…要注意人物だろう。

思わず縮こまってしまうおとなしい生徒が数人。マントで身を包んだ女子の筑摩心詠ちくまこよみと、西洋風の甲冑をまとった大柄な男子、土壁厚つちかべあつし


次郎が虎頭をぐるりと巡らせた。


「まあ、概ねそのとおりだ。本当はもっと言うことがあるが…あとは進めながらにしよう」


にわかに生徒たちが盛り上がり始める。その中で福来フクがおずおずと手を挙げた。


「あのー…右肩と左肩に浮き出てるこの数字の意味は何でしょうか…」


お、ちゃんと脳筋じゃない奴がいる。次郎は内心安堵した。


「それはミニオンとしての強さを示す数字だ。右肩の数字が攻撃力、左肩が耐久力ということになる」


そう言われてフクは自分の両肩の数字を確認する。


「じゃあ私の攻撃力は2、耐久力は2ということですか…?」

「そのとおり」


「ウチの攻撃力1なんだけど!?耐久力は3もあるのに!」


抗議の声を上げたのは、アマゾネスのような革鎧に大きな盾を持った女子だ。

先日、次郎に逆らってみせた女子生徒の中根久遠なかねくおんである。


「くーちゃんはまだ良いし…ハヤなんかこれだし」


ショボンとしてるのは中根久遠と仲の良い女子、内水鮠うつみはや。両肩の数字はどちらも1。中根とは中学からの付き合いらしく、初日に中根と共に態度悪かった女子その2だ。


「あーしも〜」


me tooという意味であろうか。横幅広めの女子が二人を慰める。

態度悪女子その3、外山雛とやまひなだ。


「今は数字で一喜一憂する必要はない」次郎がむっつりと答えた。


どういうこと?と生徒が首をひねる。


「全員――」次郎はそこで一息おいて、生徒たちを見渡した。


「俺が殲滅するからだ」

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