第5話


 長い登下校の時間を一緒に過ごすようになって、俺はごく自然に、蒼、結沙、明弘、それに茜のグループの中にいることが多くなっていた。


 親切で優等生タイプの明弘は暇さえあれば本を開いているようなやつで、一緒に居て気疲れしない存在だ。

 それとは反対に、結沙はあれこれと世話を焼いてくるタイプだった。それでも、周りの反応にそっと気配せのできる娘で、かしましいのが苦手な俺も苦手になるようなことはなかった。それに、もう何度も世話になっていた。


 茜については…──…何だろう…──始めから気になっていた。


 クラスの副委員長で、誰にでも親切で、優しくて、笑顔で接する彼女。でも時折寂しそうにしている。そんな時には、たいてい俺は彼女の視線を感じていた。


 それから蒼……。姉の茜と違い、俺に向ける整った顔立ちはいつも不機嫌そうで、そして事あるごとに突っかかってくるようなところがあった。茜や結沙と明弘が間に立ってくれることも多かった。

 俺には全くその理由が思い当たらないのだが、それでもそんな蒼を、ただ嫌いになることはできなかった。やはり気になるのだ……。



   *  *



 校庭にホイッスルの音が響き、直後に歓声が重なった。

 二クラス合同での体育の授業は男子はサッカーで女子は軟式テニスだったのだが、クラス対抗の意識で盛り上がるサッカーグラウンドの周囲に、コートから外れている女子が出てきては黄色い声を上げている。


 浩太らのB組は、目下の夏の県大会でベスト4を戦っている2トップにスーパーサブのチャンスメーカーまで加えたA組の強力な三人組トライアングルに、前半早々で既に2点を献上していたが、終了間際のこのタイミングで更に1点を失ってハーフタイムに入ったのだった。



 最初から勝負は諦めてるようなメンバーが半分という感じのB組の中で、勝負事として拘っているのが蒼と浩太だった。


 蒼は小柄な身体でグラウンド全体に出没し、小さな体でA組のトライアングルをよく追い立ててはいたが、彼の速さに他のチームメイトが連動できず、最終ラインの明弘がカバーに入っている時くらいしか機能していなかった。


 千葉の強豪校でベンチ入り候補まであと少しだった浩太は、そんな状況を冷静に見ている。

 浩太の見たところA組の2トップ+1はなる程確かに巧かったが、その他のメンバーはB組と比べても大差なく、やりよう一つで戦えない相手ではないと感じている。

 それに蒼と明弘の存在…──ボール捌きで、二人に経験があるのは一目で見て取れた。



「葛葉、お前ボランチに入れよ」


 ハーフタイム、浩太は思い切って云ってみた。

 B組の全員が浩太を見る中、蒼が答えるより先に、サッカー部に籍だけ置いてる三山という男子が、わかったような顔で割って入って云う。


「葉山くん……いま蒼が下がっちゃったら、完全に打つ手なくなっちゃって、試合になんなくなるよ」


 そんな三山に浩太は構わなかった。

「ともかく後ろ安定させなきゃ、試合にならない。無駄に走り回って体力消耗するだけだ」


 三山は黙ってしまい、蒼はというと、ちらと明弘を見てから浩太に向き直った。

「どうすんだよ?」


 蒼から視線を外し、チーム全員を見回してから、浩太は自分の考えをチームメイトに説明し始めた。

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