また逢えて
また逢えて 1
秋──。
そこかしこから金木犀の香りが漂いはじめる頃。
良樹は部屋の机の上に広げた日記帳の最後のページを、もう一度だけ確認した。そこにはやわらかな、わりとしっかりとした彼女の筆致で、時間と場所が識されている。
時計を確認すると、日記帳を閉じ──ブックバンドを廻して、パチリ、と小さな錠前を掛ける。
それから本棚の一画に座らせているうさぎの紙人形に両の手を合わせたりして部屋を出た。
2学期制の進徳館高校が、短い秋休みに入った初日だった。
ダイニングテーブルの上では、夜明かししたらしい母が読み止しの文庫本を手に突っ伏していた。本の端から覗いている栞は、花束を抱えたうさぎの方だった。
良樹は一度部屋に戻って毛布を持ってくると、そっと掛けてやった。
それから玄関の扉をあけると、秋の陽射しに隣家の屋根がやわらかく輝いているのに目を細める。
階段を降り切ったところで、良樹は呼び掛けられて足を止めた。
声の方を見やると、視線の先でワンレングスのストレートボブに包まれる、ほっそりとした瓜実顔がこちらを向いている。
声の主──高杉美緒の、ささやかに、でもいつもより確実に華やいでいるその出で立ちに、良樹は思わず二度見してしまった。
「…………」
普段より二割は魅力を増していて、一瞬誰かと目を疑う。
「──おっそい!」
美緒の方は、出来の悪い弟を叱るように睨め付けると、そう云って良樹に先立って駅の方へと歩き出した。
良樹はそんな早足の美緒をあわてて追いかけ、追い付くと言い訳がましく口を開く。今日のこの場に何で彼女がいるのだろうか、という疑問はとりあえず措いておいた。
「ええっと……15分前には確実に間に合うと思うんですけど……」
「あまいよ、二年坊……ひろえは30分くらい前に着いてることなんてざらなんだから」
「え……」 良樹はちょっと絶句してしまう。「マジで……?」
美緒がにまっと笑う。
「まじ、まじ──ほら急ぐ!急ぐ!!」
美緒は、自然とお姉さん風を吹かせて、面白がるように良樹を急かした。
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