出逢ったから… 9

「そ……。わかった、もういい……」

「なんなんだよ!! おれ、全部話し──」


 その荒れた良樹の声は、もっとささくれた亜希子の声に遮られた。


「今日宮崎が、そのコと歩けるわけないじゃない!」


 思いの外の大きな声音に、周囲で様子を窺っていた女生徒たち(一部男子生徒)の気配が、一斉に色を失って止まった。



「──だってその名前って、去年の修学旅行での名前だよっ」


 ……え!?


 良樹の思考も止まった。

 思わず見返した先の亜希子は、黙って俯いている。


 しばらくすると、ようやく止まっていた周囲の気配たちが、少しずつ、一つ一つ、個々にと、その場を立去り始めた。

 亜希子は最後の気配がなくなってから、のろのろと歩き出した。


「ほんとのこと言いたくないからって、そういう趣味の悪いウソ、つかないで」


 立去りしなの亜希子の潤んだ声が、耳元に残る。


「……」


 あとに残された良樹は、混乱する頭を一つ振ると、二段飛ばしで非常階段を駆け上がった。





 結局、それから中里宏枝の姿を見つけることはできず、最終日の学級別活動を消化して、良樹たちの修学旅行は終わった。

 東京に戻る新幹線の車中、良樹はA組の女子に訊いて〝中里宏枝〟という生徒が、少なくとも今年のクラスにはいないことも確かめた。


 帰宅後に手荷物を荷解きすると、嵐山の民芸店の包み紙が二つ出てきた。


 一つ目の包み紙からは、愛らしい図柄の和紙でできた栞が二枚。

 二つ目の包み紙の中から出てきたのは、白い卵型した長い耳のうさぎの紙人形。



 机の上にうさぎを置く。

 その円らな目が、良樹の中の彼女のそれと重なる。

 良樹は机の上のうさぎを、ちょんと指で揺らしてみた。


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