出逢ってから 11
小ぢんまりとした店内を見回すと、これはいかにもといった竹細工や和紙でできた民芸品がところ狭しと置かれている。
良樹は、手頃な値段で買える物をと店台に置かれた商品を見ていく。実用的で女性が喜びそうなちょっとしたもので、地味めな色合いのものを探す。
和紙で出来た栞なんかいいかも知れない。
何となくそう思い付いて、幾つか絵柄を見比べてみる。これと言ってピンとくるものがない……。
「お母さんに?」
そんな良樹に、傍らの宏枝が静かに訊いた。
「え? ああ──」 良樹が手元の何枚かを見比べながら、苦笑して応える。「どんなのがいいか、わかんないんだよ。プレゼントなんて普段しないし」
言い訳がましい良樹の言葉を皆まで聞かず、宏枝はんーと、人差し指をおとがいに当てた。
「……N.T.のファンなら、こんな感じとか?」
宏枝は、独り言ちるように棚から一枚を選んだ。それから小首を傾げて別の一枚に目を移す。
「これもかわいいかも」
楽しそうに口元を綻ばせて、良樹の方を見る。
一枚はかわいらしい童女の図柄で、もう一枚には擬人化されたうさぎが花束を抱えて駆けている。
「なるほど……」
確かに母の少女趣味な感性に合っているような気がしてきた。
良樹は、結局その二枚とも買うことにした。
良樹がレジの方に向かうと、宏枝は店台に視線を戻し、お道化たような円らな目に見つめられてることに気付いた。
「へー」
小さな店台に置かれた色とりどりの小物の中の、長い耳を立てた丸い人形が見上げている。
「かわいー」
目を細めて手を伸ばしかけ、でも躊躇って、結局その手を引っ込めた。
レジで勘定を済ませた良樹は、そんな宏枝の横から白い卵型したそれを手に取って手の平の上に乗せてみせた。
「うさぎ?」 ちょんと揺らして見せる。「かわいいじゃん」
「……うん」
宏枝の目線の先で、うさぎの人形が円らな目をして踊っている。
不意に、美緒の顔が重なった──。
──やーい、い・く・じ・な・しー
──うーるさい! そーじゃないんだから……!!
茶化して言う美緒のイメージを慌ててかき消す。
──だって、わたしは、もう……
「どしたの? 買わないの?」
「…………」
良樹の笑顔に、宏枝は気圧された様にたじろぐ。
怪訝な表情になる良樹を、おずおずと見上げた。不思議な瞳の色で。
良樹と目が合うと、ふとその表情が何かに思い当たったように、少し軽くなる。
「買います!!」
宏枝はそう言うや、そのうさぎを受け取り、さっきまでの表情とは打って変わった素軽い足取りになってレジに向かった。
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