出逢ってから 7

「中里はさ、とてもいい笑い方ができると思うよ」


 宏枝は、自分の中の冷たい何かに、温かいものが当たったように感じた。



「少なくともオレは、さっきまでの中里の笑顔、好きだと思った」


 一瞬、息がとまった。

 その言葉は、一番言って欲しかったはずの言葉。


「あんなふうに笑えたらって、そう思って、一緒に歩いてた」


 でも、素直になれない……。


 違うよ……、違うの、宮崎くん。


 ああやって笑ってたわたしは、ほんとのわたしじゃない。

 わたしの中で私が作った、自信のないわたしが作った、作りもののわたしなんだよ……。


 ほんとのわたしは──


「それと、中里、オレのこと〝やさしい〟って言ったろ。それ、よく言われるけど、ほんとはちょっと違う……」


 宏枝の心が溢れてしまう前に、その良樹の告白は彼女の耳元に滑り込んできた。


「あれって、オレが優しいからじゃない──オレはただ、言われたくないことを言わないだけで、されたくないことをしてないだけで──自分のために、自分がかわいいだけで……、だから、他人ことを思い遣ってるわけじゃない」


 同じだ……わたしと──


 涙がはらはらと零れてきた。

 自分よりもずっと大人びていて、落ち着いていて、ずっといろんなことを考えているような、そんな彼が打ち明けてくれた。


 ──自分の中にいる自分を信じてあげられないと。


 でも、彼のそういうところだって、わたしはやっぱり優しいんだと思う。


 同じね……わたしと


 もう一人の自分に嗤われる。でも、その目は、一緒に泣いてくれている。


 目を瞬かせると、濡れた視界の先に良樹の困惑する顔がある。

 そんな顔した彼に、心の中だけで語りかけた。


 宮崎くん……そういうのだって〝やさしさ〟だよ……


 たぶん彼はそれを否定するんだろう……。

 でも、わたしは、そんな彼に言ってあげたい──


 だって、心が温かくなったよ……。好きだって、そう言ってくれたの、うれしいかったよ……


 同時に、もう一人のわたしがわたしに云う。


 同じでしょ? わたしの笑顔が好きだって。わたしのこと好きだって……

 ──そう言ってくれる人がいるんだよ……。

 ね? そういうことでしょ?


 わたしは、わたしを好きになってあげたい。

 だって、彼が好きだと言ってくれたわたしだから。

 そういってくれた彼は、ほんとの彼だと思いたいから。

 そういう彼を好きになりたいから……。


 だから、涙を拭って彼に笑ってみせる。


「ありがと……」


 上手く笑えてるだろうか。

 今度は、素直に言えた気がした。


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