記録班結成

「それじゃまたね」

「明日な!」

 手を振る二人に小さく「また明日」と呟いて後ろ姿を見送った。そして家のガレージに直行する。焼き付きの修理だ。

 まずはカウルを取り外し腰上を割る。ピストンが姿を現わす。

 やっぱりだ、シリンダーにもピストンにも引っ掻いたような傷が無数も付いていた。

 正直ボアアップも考えてはいたが私の最初の夢は「50cc」のまま100km/hを超えることだ。

 こんな事も想定内ではあったため予備パーツは用意しておいたがただ取り替えるだけでは同じことを繰り返すだけだ。

 とりあえず今回の失敗点は冷却不足。普通ならば使う事のない回転域で回し、さらに空気抵抗削減のため取り付けたFRP製のカウルが冷却を妨げたのも原因だろう。

 まず今すぐに出来ることは空気の入り口を広げ冷却効果を高め、その後にオイルポンプの強化だ。


 数日後、届いたオイルポンプを交換してヘッドの修理も終わった。しかしまたアタックを重ねても結果は80手前が限界だ。

 マフラーは既に変えてある。それに合わせビックキャブとハイカムの装着。高校生が出来る限界はこの程度だった。

 そんな時だった、あの二人が家に来たのは。


「よお、何やってんだ?」


 2サイクルエンジンの音を響かせるネイキッドバイク、確か名前はウルフ。それに跨った濱崎がそこにはいた。フルフェイスのから覗く顔は紛うことなきアホヅラだ。そして後ろにはジェットヘルで柄にもないジーンズを履いたカメコもスクーターに乗ってきていた。たしか、ジョルノだったか。

 初夏の日中、道北にしては随分と暑い日でシャッターを全開にしていた。そのお陰で二人に見られてしまった。

 別に隠していた訳ではないが見られるつもりもなかった。

「べ、別になにも」

 性に合わず声が裏返り答えてしまう。

「そんなことないだろ。楽しそうなことじゃんか」

「私も気になるわ」

 この二人が興味を持ったらどうやっても言い包めることは出来ないだろう。

 大きくため息をついてガレージの天井を仰いで自分の夢を伝えた。

「つまらないでしょ」

 このプロジェクトは一人で達成したいことだった。だから自分が思ってる以上に冷たくあしらったと思う。これで諦めてくれると思っていた。

「楽しそうじゃない」

「えっ?」

 濱崎ではなくカメコが真っ先に食いついた。

「やりましょう、濱崎君も気になるでしょ?」

「そりゃそうだ」

「そんな勝手に……」

 どうにか二人から逃れる方法を教えているとカメコが目の前まで迫ってくる。その顔はまるで新しいものに興味を持ったら幼稚園児だ。


「勝手じゃないわ、だって私たち仲間じゃない」


 しっかりと私の目を見てそう言い切った。その言葉に私が動揺してる中続けて口を開いた。

「よく言うじゃない、辛いことや悲しいことは分かち合う。なら楽しいことだってそうでしょう? それに仲間の夢なら見届けたいわ」

「んっ……」

 思わず言葉が詰まる。

「カメコの言う通りだぜ。俺たちは仲間だ。あと『記録班』だって必要だろ? お前が仕上げたエンジンで時速100キロの壁を超えたって言う、記録を正確に残す」

 何も言わずに下を向き無言になる。

 正直自分は孤独だと思っていたし、バイクは孤高の乗り物と考えて孤独でいいと思っていた。でも自分には「仲間」と言ってくれる人がいた。


「わかった、でも私の力だけでやる。そこは譲れない」

「安心しろって、俺たちゃあくまで記録班。だろ、カメコ」

「ええ、そうよ」

 そう言ってカメコはバックから一眼レフを取り出した。

「それじゃあまずは記念すべき1枚目ね。私たち記録班とあなたのチームの記録」

 作業台の上にカメラを置いてタイマーをセットする。そして直したばかりのバイクの裏に回ると二人は私の肩に腕を回し、カメラのレンズに向かって笑顔を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る