第4話 イイハナシダナー

薄っすらと重たい瞼を持ち上げると見慣れた天井が視界に入った。

隣を見てみると、同じく床にうつ伏せになっているリアがいた。


「…ぅあ」


呻き声をあげてはいるものの外傷はなくただ眠っていることがわかる。

それに少しだけ安心しながら改めて周りを見回す。

周囲には床に倒れ伏している同級生たちがいた。

その中に柚姫の姿もありほっとする。

そしてさらにその周りには、いかにもなザ異世界のお貴族様といった雰囲気の衣装を身にまといおのおのが歓喜と困惑の表情を浮かべている初老の男性たちが口々に心情を言い合っていた。


「まさかここまでの人数を召喚できるとは……」


「して、この中の誰が勇者なのだ?」


「……まさかこの者たち全員が勇者なのではないか?」


「なんと!?」


「流石は先代勇者と共に戦った聖女様だ。……あの者も聖女様の優しさに付け込まなければ今頃…」


「これ、その話はやめんか。せっかくの今代の勇者方が目覚めそうじゃぞ」


「はッ、失礼をいたしました。申し訳ございません。」


ひときわ偉そうな、男性の失言を諌めた男は鷹揚に頷くとこちら側に視線を向けた。

すると、同じようなタイミングで周りの奴らも起き始めた。


「…ゔぅ、ここどこ?」

「あれ?俺なにしてたんだっけ?」

「私はダレ?」


ざわざわと、床に倒れ伏していたクラスメイト達が意識を取り戻しざわめき始めた。

口々に、ここはどこか、など周りを囲んでいる人たちの服装を指差してテレビ撮影?と話し始めている。


「オホンッ、よくぞ我が国にいらしてくれた勇者方よ!」


一段高い場所に豪奢な椅子に深く腰掛けた男が、咳払いとともによく通る声で話し始めた。

その瞬間、今までザワザワとうるさかった生徒たちが水を打ったように静まり返った。


「私はアティースィ王国国王、ゴドリック・シャント・アティースィ。我が国は今魔人族達に攻め込まれて大変な窮地にある。そこで、我が国に伝わる勇者召喚の議で召喚したそなたら勇者に我が国を救ってもらいたい!」


その内容に今まで静まり返っていた生徒達が、またザワザワと騒ぎ出した。


「勝手に召喚しといて、救えなんて勝手が過ぎるよ!」


「なんで俺たちが救わないといけないんだよ」


「元の場所に帰してよ!」


「お家に帰りたい…」


「帰りたーい帰りたーい、あったか我が家が待っているー」


「ふざけんな!おい、お前も歌うな!」


みんなが思い思いに野次や罵詈雑言を浴びせかけているのを見て国王は苦渋の表情を浮かべる。


「確かに、我が国の事情で皆を召喚しておきながら『救え』など厚顔無恥と罵られても仕様のないこと。しかし、今この時も魔族の脅威に怯え暮らしている我が民を助けてはくれないだろうか、魔王を倒した暁には我が身命を賭して皆を元の世界に帰すことを約束しよう」


さすが、王を名乗るだけある。

自らを落として民たちのためには尽力する、さぞかしクラスメイトの目には良い王様に映っているだろう。

実際みんなは先ほどまでの批判をやめ目を伏せ頼み込む王を見つめている。

みんながお互いの顔をチラチラと見ている。

その心のうちには『戦いたくはないけど、ここで断ったら見捨てるみたいで後味が悪い、どうしよう…』という思いが透けて見える。


「助けてあげようぜ、みんな!」


膠着状態の中、声を大にして助けてあげるという決意をしクラスメイト達に呼びかけたのは、やはりスクールカースト上位の青山聖(あおやまこうき)だった。


「……でも」


だが、流石にスクールカースト上位の人間に言われても戦いに加わらなければならないと聞けば尻込みをするのはわかる。

まあ、今渋っているのは青山があとひと押しすれば落ちるだろう。


「困っている人が居たら手を差し伸べて助けてあげる、人として基本だろ?それにどうしても戦いたくなかったら俺が君の分も戦うよ、だからクラスのみんなが無事に帰るため、困っている人を助けてあげよう!」


「うん、分かった青山君がいうなら私も戦うよ!青山君にだけ戦わせて自分は休んでるなんて出来ないもん!」


青山は気がついているのだろうか?

自分がクラスメイトを押しているのは救国の勇者という華々しい未来にではなく、

後にも先にも道がない断崖絶壁であることに。


「みんなもそれでいいかな?」


ニコッと微笑みかける青山(イケメン)に否を唱えるものは真正面切っては居ないに決まっている。


「聖だけにいいかっこはさせないぜ〜、俺もお前に賛成だ」


「全く、あまりはしゃがないの!いつもいつもあんたたちの尻拭いさせられる私の身にもなりなさいよね」


「あはは、聖君と龍太郎君は仲がいいね〜」


場違いに盛り上がる4人組にうわぁと思う。


もしかして俺も初回はあんな感じだったりしたのか?


ありえないわ〜痛い痛すぎるよ!

俺が己の黒歴史に身悶えしている間に王たちとの話が進んでいた。


「では、我が国に住まう国民のため、よろしく頼む勇者がたよ」


「はいっ!」


4人につられるようにみんなが返事を返す。

すると、周りに立っていた大臣達も拍手をしだす。


「我が国民をお助けくださる勇者がたに感謝と祝福を!」


わあああっ


と湧き上がる周囲に拍手され周りから頭を下げられまんざらでもなくなり手を振り返すクラスメイト。

幸福の色に包まれてみんなの顔はどこをみても明るい。


ああ、すっごく


イイハナシダナー

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