1000PV達成記念小話

「おいこらリア!ふざけんなよ!」


日曜日。

それは世の学生たちの希望の日であり絶望の日である。

厳密に言えば、試験も何にもない某妖怪アニメまでは希望の日、夕方にある海産物の名前の家族のアニメからが絶望の日。

そんな希望と絶望の入り混じる日になぜ俺は怒声を上げて階段を駆け上っているのか、

それはほんの10分前まで遡る。



※※※※※※※



「普よ、このゲームは秀逸じゃぞ。お主もやってみよ」


リビングのソファーでうだうだごろごろしながらテレビを見ていたらニヤニヤ顔をしたリアが背もたれ越しから身を乗り出してゲームを勧めてきた。


「なんのゲームだ?」


テレビから視線を上げリアの方を見やる。

すると、よくぞ聞いてくれたとばかりに持っていたゲームソフトについて語り出す。


「うむ!今流行りのRPG区分のゲームじゃな、まずなんといってもグラフィックがすっごーく綺麗なのじゃ!そしてキャラ造形も申し分ない!よく背景は綺麗じゃが人物画が微妙なものもこの手のゲームにはありふれておるがこれはそのどちらもケチの付けようがない!そしてそしてストーリーも最初から最後まで飽きのこない展開!最初の伏線にはなかなか触れないいやらしさ、しかしその焦らしにより回収されたらすっきり感動の物語!妾はこのゲームに出会いプレイするためにこの地球にやってきたんじゃと断言できる!普お主も早くプレイするのじゃ!この感動を語り合おうぞ!」


鼻息荒く暑苦しく語るリアに少し引きながらも、三度の飯よりゲームが優先なゲーマーと化したリアにここまで言わしめるこのゲームが気になっていた。


「リアがそこまで絶賛するならよっぽど良いものなんだろ?貸してくれ、それはそうと本体はなんなんだ?携帯機器か?」


状態を起こしてリアからゲームソフトを受け取る。


「携帯機器でも出来る、がしかし!これはテレビに映し出して大画面でやることを勧める。その方がグラフィックを存分に味わえるのじゃ!」


「ふーん、そっか分かったよ、じゃ接続ケーブル持って来ないとな〜」


ゲームソフト片手にソファーから降りてリビングの大きいテレビの乗せてあるテレビ台の下からケーブルを取り出し始めるための作業を進めていく。


リアが薄っすらとニヤッと笑ったのを見たものはいなかった。




※※※※※※



そしてプレイして、冒頭に戻る。


「リアァァァ!いるなら出てこい!」


と言いながら戸を壊れないギリギリで蹴破り中に入る。

残念ながらリアの姿はなかった。

が、机の上に紙が一枚置いてあるのが目に入ってきた。

拾い上げながら内容を読むと、急に顔から表情が抜け落ちた。

後に、この時の様子を異空間越しに見ていたリアは、

それはまるで能面のようだったと語る。


「異空間に逃げたか…すぐに捕まえてやるよ。あんなもん渡したんだどうなるか分かってんだろうな?お望み通りにしてやるよ」


直後、普の周りの空間がグワァンと歪んだ。


「見つけた」


歪んだ空間に手を伸ばして、何かを掴むと引きずり出してきた。


「放すのじゃ!」


何もなかったはずの虚空から出てきたのはリアだった。

ジタバタと普から逃げようとして暴れている。


「なんなんだよあのゲームは!」


「秀逸じゃっただろ!」


ムフーと勝ち誇った顔で引きずられたままの状態で胸を張るリア。


「前半まではな!後半はBLゲーじゃねぇか!母さんが降りてきて慌てて説明するの大変だったんだぞ!どうしてくれる!」


そう、リアが渡してきたゲームはたしかにグラフィックはとても綺麗で内容も良かった。

前半までは…

後半になるにつれて主人公と剣士、魔術師、僧侶、商人、村人エトセトラエトセトラエトセトラで所構わず迫られて『アアァー』な展開になっていくのだ。

前半の仲間集めなどはこのためだったのかと恐怖に陥った。

しかし本当の恐怖はここからだったのだ。

階段を降りてリビングに入ってきた母さんがテレビ画面を見て固まって、そうだったのね?と優しい顔をして開けた扉を閉めて戻っていったのを慌てて追いかけ必至に弁明したのだ。


「どれ、ちょっとお仕置きが必要だな」


リアを持ち上げて出てきた異空間の中に再び放り込む。

そして自身も乗り込む。


「覚悟しろよ、この痴女」


「待て!待つのじゃ普、妾が悪かったのじゃまさか秋音殿が来るとは思わず!」


弁明虚しく異空間の出入り口は完璧に閉じられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る