第3話 泡沫の幸せと、それから…
夢を、見た。
懐かしい、優しい、今はもう会いたいという僅かな願いすら叶える事も出来ないけど…
「アマ兄ぃ!」
「おにぃちゃあん!」
「おかえりなさぁい」
「遊べぇぇぇぇぇぇ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
村の家々から子供達が飛び出してくる。
皆顔は喜色満面だ。
タックルをかましてくる子供たちを軽々と受け止めながら、こちらも笑いながら話しかける。
「久しぶりだな!ロイ、ネル、リュナ、カン、ビン」
「うん!アマ兄今度はどこ行ってきたの?」
「おはなし、きかせて!」
「リューずっと待ってた!」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛びついてくる子供達を難なく受け止めながら、「そうだなぁ〜」と言って今回の旅の話を聞かせる。
その間、ずっとキラキラと目を輝かせながら口を開けば、「アマ兄すごい!」「カッコいい!」「アマネお兄ちゃんみたいになりたい!」と囃し立てる子供達の頭を優しく撫でる。
周りにいる人達もそれを微笑ましく見ていた。
優しい時間、だった。
いつまでもこんな穏やかな時間が続くように頑張って、頑張って魔王軍をこの国から退けよう、みんなの笑顔を守ろうと、そう思ったのに…
場面が切り替わるかのように一瞬視界がブラックアウトした。
次の瞬間、目の前には先ほどと同じ村人たちが、いた。
しかし、そこに笑顔は無かった。
皆、虚ろながらんどうな瞳をしていたり、白目を剥いたり、またあるものは目玉が穿り出されて陥没している者もいる。
身体のパーツはバラバラにされ、ひとつの山を作っていた。
村人の中心にはご丁寧にも、俺を人一倍慕ってくれていた子供達の首が並べられ、血溜まりを作っている。
ありえない、ありえないだろう。
こんな幼い、純粋に俺を慕ってくれていた子供達を己の欲望のためにこんなに惨たらしく惨殺し、あまつさえ遺体を弄ぶなんて!
復讐してやる。
犯人は分かっている。
こんな事を平気な顔してやるやつらはあいつらしかいない。
殺してやる。
惨たらしく殺された、こいつらのためにも、俺のためにも…
あいつらを、許さない。
どのくらいそうしていたのだろうか…
赤く染まった視界の中で、村人たち亡骸の上に白いシーツを掛けて立っている女に気づいた。
「御機嫌よう、勇者様。いえ、元勇者様兼現在は史上最悪の人類の敵様。私(わたくし)とした事がうっかり間違えてしまいましたわ、失礼しまた。」
亡骸の山の上で、とても綺麗なカーテシーを決める女を、薄らぼんやりとする視界の中で捉える。
「この催し物はお気に召していただけましたでしょうか?大変だったのですよ?わざわざあなたと親しい者たちを探し出して首を落とすのは。」
高いピンヒールで元村人たちをグシャッと
踏みつけ白いシーツに赤いシミを拡がらせていく。
その姿はまるで、ワインを作るためにするぶどう踏みのようにも見える。
そのくらい、俺に絶望を与えられたのが嬉しいのか笑顔で踏んづけている。
グシャグシャという骨の砕ける音とピチャピチャという水音があまりも不愉快で、気持ちが悪い。
「私、ぶどう踏みなどは下賤なる羽虫たちのやる事だと言われていて遠巻きに見ることしかできませんでしたの、こんなにも楽しいものだったのですね!知りませんでしたわ!」
白のドレスの裾を優雅に持ち上げ、なおも楽しそうにグシャグシャと潰すその女を、緩慢な動作で顔を上げて、瞳には殺意と憎しみと、憎悪とが綯い交ぜになったどろどろとした感情を映して睨みつける。
「……お前は、お前は絶対に無残に無慈悲に殺してやる、今からお前は、いやお前らはぜっまいにゆるさねぇ!覚悟しておけ!俺が絶対に…ぶっ殺してやる!」
俺の、尊厳にかけて命に代えても何があっても、たとえ世界が移り変わろうとも、こいつらだけは殺して殺して殺して、
殺し尽くしてやる。
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