第2話 異世界召喚は唐突に


4限終わりの昼休み。

各々が授業が終わった事で自由を満喫しながら腹ごしらえを友人達とする中、


「リアちゃーん!そんな厨二野郎は放っておいてこっちでご飯食べよう」


明らかにからかっているとしか思えないニヤニヤ顔でこちらを見ながらティアに抱きつく女子生徒がいた。


「うむ、では今日は2人で食べるとするかの。確か西棟に行くところの昇降口が穴場なんじゃったか」


こちらも同じくニヤニヤと笑いながら話している。


「おっと、普(あまね)お主、昼を共にする友人はいないのかの?」


その我が家の居候様は勝ち誇ったかような顔で、「ほれほれ早く答えてみよ」なんて言っている。

正直ぶん殴りてぇ

女子生徒、天音柚姫(あまね ゆずき)は俺のイラついた態度と表情に調子に乗ったのか、はたまた我が家の居候様が味方に着いたのが嬉しいのか、ウザさが増した。


「あれれ〜?シロくんもしかしてお昼一緒に食べる友達いないんですかぁ?しっかたないなぁ、『お願いします柚姫様お昼を共にさせてください』って言ったら一緒に食べるの考えてあげないこともないわよ?」


超得意げな顔でツラツラとつまらせる事なくウザい言葉を紡ぎ出す柚姫に盛大なるため息をプレゼントしながら、冷めた目を向け口を開く。


「うるさいですよ、いい加減そのペラペラと良く回る口を閉じてくれませんか?僕の精神衛生上よろしくないんで」


丁寧さを多分に含みながら毒を吐くと、柚姫は得意げだった表情から一変、気持ち悪そうに両腕をさすり始めた。


「きっもー!シロが敬語とか似合わなすぎ、高校生にもなって厨二病未だに患わせてるんじゃないわよ。似合わないのよそれ」


「うむ、そうじゃな。普お主作りすぎじゃ。素のお主はもっとこう、野性味溢れる感じで妾にもあんな事やこんな事させて喜んでおるドS野郎ではないか!それが何故今はこうも大人しいのか、妾には不気味でならん」


教室の中から殺意を含んだ視線が身を刺すように降り注ぐ。


「調子乗りすぎじゃねぇ?代音」

「俺たちの姫になにをしたんだ!」

「始末、始末、始末始末始末始末始末始末始末始末始末始末始末始末始末」


やべぇのが最後に聞こえてきた瞬間に、


「ちょ、リア!」


慌ててリアの口を塞ごうと椅子から勢いよく立ち上がる。

このままでは俺の平穏な学生生活が崩壊してしまう!


まあ、今でもあまり平穏ではないが…


ガターンッと大きな音を立てて倒れる椅子もそのままにリアの口を手で塞ぎ、抵抗されないように手首を掴んで密接した。


「てっめぇ、教室で何を口走ってやがる。」


「もごっも、もももご!ももご!」


口を塞いでいるので思うように声が出ず、もごもご言っていると次第に諦めたのか念話で話しかけてきた。


『なにって、お主の痴態じゃな、いや性癖とでも言うべきかの?』


『だからって、今ですらあちこちから馬鹿にされたり睨まれてるっつうのにこれ以上いらん敵を俺に作るような真似やめんか馬鹿!痴女!』


『なぬっ!?痴女じゃと⁈』


表面上、プルプルと小刻みに震えながら涙目で顔を赤くしながら睨みつけているリアと、表情は眉を下げて困った笑みを浮かべながら美少女の口を鷲掴みで(痛くないよう最新の注意を払いながら)塞ぐ俺。

教室中の野郎どもとリアのファンの女子たちの殺意のこもった視線、どころか圧を感じる。

俺が少し狼狽したのが伝わったのかリアの目がキラリと光って、少し緩んだ俺の手のひらを舌先でチロッと舐めた。

完全なる不意打ちに思わず手を勢いよく引く


「っ!」


「ふふっ、どうしたんじゃ普」


「おっ前なぁ」


手を抑えながら、リアを睨みつける。

多分今顔が少し赤くなっている事だろう。

なんせ、今、目の前でリアがその見た目にそぐわない艶やかな表情をしているからだ。

たく、先程まで感じていた視線が半分に減った事はありがたいが…


「む〜、なによ2人だけの世界作っちゃって!」


リアの艶やかな表情を至近距離で直に見てしまったからか、柚姫の顔が赤い。

頰を膨らませて腕を組み、明らかに『私怒ってます』を体現している。


「リアちゃんは私のなんだからね!」


「へーへー、さいですか。ようございますね〜」


おざなりに答えると、これ以上絡まれるのは御免被るので弁当を片手に教室を出て行こうとする。


「あ、ちょっとシロ!どこ行くのよ!まだ話は終わってないんだからね!」


やべぇ。

おざなりに答えたのが、気に入らないのか口をへの字にして眉根を寄せている。


うん、逃げよう。


さらにスピードを上げてドアに手をかけたその時。


「きゃあ!」

「うわ!なんだ⁈」

「なにこれぇ」


いきなり教室の中が真っ白に光った。

床には細々とした紋様が浮かび上がっている。

これには見覚えがある。

だからこそ、クラスの人間がパニックに陥っているのを尻目にドアを開けて逃げようとする。

しかし、


「ちっくしょ、開かねぇ!」


ビクともしないドアに足蹴りをくらわせようとしたその時、一際眩く魔法陣が光った。


「あ、あーくん!」

「む、これは。普ちと厄介な事になったのぉ」

「柚姫!リア!」


2人の腕を掴み引き寄せた。

次の瞬間、床が抜けたかのような浮遊感に襲われ、パキンッというガラスが割れたような音が聞こえた瞬間、猛烈な圧がかかり意識が黒く染まった。



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