第15話 異世界統一の歴史

 ひと事で言うならば“惨状”である――。

 顔面が崩壊したやつと、泡を吹いてるふたり、下顎が粉砕され、ふた目と見られない顔になった追い剥ぎが転がっている。死屍累々ししるいるいだ。

 助けられた旅人夫婦も、言葉を失っていた。

 追い剥ぎよりもひどい、ファンローラの純粋暴力であった。


「さっ、もう大丈夫ですよ」


 ここで可憐ば微笑みが浮かぶのは、一種のサイコホラーのようである。

 いいことをしたと微塵も疑っておらず、純真無垢そのもの――。


「あ、ありがとうございました……!!」


 平身低頭して、散らかった荷物をまとめると逃げるようにその場から消えた。

 アマトもその気持ちはわかる。


「おふたり、よほど急いでいたんですね。それほどお子様が心配なのでしょう」

「ええと、違うと思うんだ……」


 可愛いが、ゴブリン並みの知性しか持たぬファンローラでは、そのように理解するのが限界であろう。ともかく、追い剥ぎはものの十秒程度で退治された。


「まあ、報奨金は出るわよ。時間効果にしたら実入りはいいわねえ」


 アンヴァがファンローラの蹴りによって生まれた惨状から収入を割り出した。

 追い剥ぎは大した賞金がかかっていたわけではないが、十秒ちょっと(スイチン込み)なので時給換算するとコストがいい。

 これを繰り返せば、路銀もすぐに貯まるだろう。

 とりあえず、その場で依頼達成をして一旦テクニカルでグランドバニアに戻る。


「あの、ゴルガスさん。ファンローラのお父さんのことなんですけど」


 テクニカルを運転するゴルガスに、アマトは訪ねる。

 ファンローラは荷台で休憩中だ、本人を前にするとしづらい話題である。


「アダマンテス大王のことか」

「そうです、恐怖の大王って聞いて」

「このクエストランド大陸には、七つの国があった。地の国、水の国、火の国、風の国、金の国、木の国、それと光の国だ」

「は、はあ」

「光の国は、“光の教え”を説く聖王がおわす国で、六カ国の宗主国であった。しかしし、次期聖王の座を巡る後継者争いが起こってな。六カ国がそれぞれの候補をあとお押ししたので大きな戦争となった。このせいで各国とも気づいたのだ、戦争に勝って力で支配すれば、物事は好きに決められるということに」

「それ、僕の世界の歴史言う戦国時代ってやつですね」

「そっちの歴史がどうだか知らんが、クエストランド大陸は群雄割拠の戦乱の時代となった。“光の教え”からも人心が離れていった。光の尊さを説くはずの国が戦乱のきっかけを生む争いをおこしたのだから、当然だな」

「そりゃ、そうですよね」


 “光の教え”がどんな宗教なのかわからないが、聞いているとその宗教が原因で戦乱が到来したのだ。

 どんなにいいことを言っていても、戦争を起こしてはいけない。

 

「戦乱の時代は百年以上続き、各国は疲弊し、人々の心は荒廃した。しかし、これを終わらせる英雄が登場したのだ。ジョアン・ホーンブルク。六カ国すべてに仕えたことがあるという無敵の戦士であった。最後に仕えたのが凋落した光の国であったが、軍勢を任されると火の国に攻め入って征服し、その王位を奪った」

「それ、英雄っていうか乱世の奸雄ってやつじゃ……?」

「かもしれんな。ジョアンは火の国を乗っ取ると、瞬く間に残る国々を併呑し、一代にしてクエストランド大陸を統一したのだ。“光の教え”すら否定し、聖都シャインズゲートを打ち壊して王都キングスウォールと改めた。そして《剣と魔法の異世界》を支配する唯一絶対無敵の王として君臨し、アダマンテス大王の尊号で呼ばれている」

「めっちゃ強いじゃないですか」

「ああ、強いとも。自身が唯一の王であるから、統一した王国は国号を持たず、ただ王国としか呼ばん。アダマンテス大王は、みずからの他に王も国も認めんからな」

「えええ……」


 乱世の奸雄どころか、覇王であった。

 国号というのは国の名である。これをあえて持たないのは、自分以外に国家や権力なぞ存在しないという強烈な意志の表れである。せっかく統一したのだから、分裂の要因となる他の国家は必要ないという強権的なアピールでもあろう。

 そのうえ、宗教の解体を成し遂げているとか、偉大な存在だ。

 ファンローラもぶっ飛んでいるが、その父親も相当である。

 しかし、その絶対的権力者が統治する王国も崩壊して現在があるという。


「そのアダマンテス大王も《大触壊》で亡くなり、王国も滅びた。諸行無常とはこのことよ」

「その四文字熟語、この世界にもあるんですね」


 確か、「諸行無常」は仏教用語である。

 これだけでなく、《剣と魔法の異世界》は、妙に漢字熟語が多い。

 異世界で使っているとツッコミどころとなるが、転生者も多いらしいから不思議なことではない。礎の国がなくても「四面楚歌」という言葉もあり、江戸や長崎がなくとも「江戸の仇を長崎で討つ」こともあるだろう。

 しかし、それほど偉大な覇王の娘が、王国が滅びたとはいえ放浪の身となり、超絶な足技を使う理由はいまだわからない。

 四つの宝珠オーブを集めていると言うが、その背景に何があるのだろうか?

 この《剣と魔法の異世界》、謎はまだまだ多い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界武侠プリンセス ~姫が無双するので勇者にやることがありません~ 解田明 @tokemin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ