第1話 国防精鋭育成高校

レイはこの現実が受け止められず、呆然とつっ立っていた。目は大きく見開き、口は半開きになっている。両手も力なく脱力し、プランと垂れている。そんなレイの表情は、驚愕一色に染められていた。


(なんだよこれ。誰かのイタズラか?非現実すぎんだろ…。窓…開けてみるか。)


レイは目の前の光景が本当かどうかを確かめるために、窓の電子キーに暗証番号を入れてロックを解除する。なぜ叔父の家なのに暗証番号を知っているのか。答えは単純だ。叔父がロックをかけていた時に、レイがたまたま後ろから見たのだ。暗証番号を。レイはその時に思った。チョロすぎんだろ!と。


レイは窓に手をかけ、意を決して窓を——開けた。その瞬間、窓から強烈な風が吹き込む。重いものを吹き飛ばすほどではないが、電子ペンや、ちょっとした置物などが、吹き飛ばされたり、倒れて落ちたりした。ガタッ、ゴトッなどの音が聞こえると、レイはすぐに何が起きたかを察する。だが、それでもあれが本当なのかを確認するために顔を隠していた腕をどけて、前を見た。そして、その瞬間に絶句する。


「マジ、かよ…。本物じゃねぇか…。」


そこにあったのは、窓越しからも見えた巨大なキノコ雲。そして、赤い軌跡を描きながら地に落ちていく隕石たち。何もかもが非現実すぎて、レイは窓を閉じた後、ロックをかけるのも忘れてベッドに力なく横たわる。しばらく心を落ち着かせ、ようやく冷静さを取り戻し始めた時、レイは今更ながらに気がついた。隣のベッドには、桃花が寝ていると言うことに。


(ヤベッ、桃花は……………、まだ寝てるか。さすが、お寝坊さんなだけはあるな。)


レイはそこでいつもの朝を少しだけ思い出しながら、スヤスヤ、と気持ちのいい寝息を立てている桃花の寝顔を見て、クスリッと笑ってしまった。


(自分の耳が良いのをこんな時にだけ使わせるなんて、ひどい神様もいるもんだな。…さっきの光景は…見なかったことにするか。流石に、知らないふりをしていれば寝てましたよアピールできるしな。道風にバレたら夜何してたんだとか問い詰められそうだし。)


道風はレイと桃花が不審な行動をしていると気付く(そう思い込む)と、必ず「何をしていた!」と聞いてくる。それが毎回面倒で、たまには殴られることもあるので、避けようとするレイ。適当な言い訳を言っては、だいたい逃れてきたが、バレないに越したことはないだろう。桃花にだって怖い思いをさせてしまう。そんなのは絶対に嫌だ。


(まぁ、今日は疲れたし寝るか。もう嫌な思い出は作りたくないしな…。それにしても…明日は大変になりそうだ…。)


今日の夕方に殴られた時にできた痣や傷。それを一生懸命看病してくれた桃花。そんな妹に、ありがとう。と心の中でつぶやきながら、レイは目を閉じる。少しだけ明日からのことを考えて不安になっていたが、それからしばらく経って、眠気がレイを襲い、レイは深い眠りについた。






2043年、4月8日の今日は、レイと桃花が一歩前へと踏み出すための大事な日。そう、高校の入学式だ。この3年間、本当に大変だったと思う。


あの隕石群が落ちた場所は、レイが窓から見たロシアの東部だけではなく、アフリカの南部、さらには西部にまで落下した。しかも、その3カ所は近年重要なエネルギー源として科学を発展させてきたコアダイトの産出地だったのだ。残るコアダイトの発掘現場はもう一カ所しかなく、そこはあまり採掘量が良くなかった。つまり、世界は資源不足に陥り大混乱。ありとあらゆる道具や移動手段などが停止し、ひと昔前の電気というエネルギーを主流として使わなくてはならなくなったくらいだった。


この事態に最初に動いたのはヨーロッパの国々だった。ヨーロッパの国々はこの資源不足の時に、イギリスが中心となって各ヨーロッパにある国に通達をした。そして、大規模な会談を行い、ある組織を作り出した。その組織の名は、欧州革命軍。目的は、。相当焦っていたのだろう。残された資源やエネルギーを全てこの革命軍が使うのだとばかりに、周りの国に宣戦布告した。そして、戦争が始まる。第三次世界大戦の始まりだ。


その連合軍に対抗するために別れた世界的派閥は2つ。1つは、中国をはじめとしたアジア諸国のグループ。この中国を中心とした連合軍は、ヨーロッパとは違い、共存を目的としているようだ。このグループはまだ正式名者は決まっていないが、その下に3つの最強部隊を持っている…らしい。まだ詳しいことはわかっていないので、予測程度でニュースで流れていたくらいだ。最後の1つは北アメリカと南アメリカのグループ。目的は欧州革命軍とアジアで連結した国たちの支配。このグループは便利さのみを追求しているようだ。こちらも正式名称は決まっていない…というかわからない。その他の場所に位置する国は、基本的に中立だ。


日本はアジアに位置するが、あくまで中立。この国の憲法で戦争はしない。と決められていただけあって、貿易や他国との交渉はするものの、戦争には参加していなかった。


そして、この世界もだいぶ変わってしまった。資源不足に陥ったせいで、戦闘機による爆撃や戦車によるレーザー砲が使えなくなった。ではどうやって敵国にダメージを与えるのか?そう。。つまり、人を使った攻撃。暗殺や、戦闘という名の戦争がここ3年間では主流となり、戦争の形となっている。


ロシア西部とアフリカ東部、アフリカ南部に落ちた隕石を、各国が調査しないはずがなかった。とある国の学者たちがたちが謎の鉱石を調べたようとしたが、なぜか素手で触った瞬間、死んでしまう者が現れたのだ。まるで、命の根っこを抜き取られたように。触れたものは21グラム体重が減ること。触れた瞬間鉱石の色が変化すること。低確率で、21グラム減量されていても生きる人間がいること。そして生き残った人間が鉱石を触れている間、超常現象が何かの力によってを発動することがわかった。


鉱石を分析する過程で鉱石が人の内にある何かを吸い取っているのではないかと推測がされた。又、生き残るものは2つ以上の色を持つことが判明する。学者たちは研究を進め、この色のことを魂と名付け、鉱石のことを魂魄石とした。日本は独自に開発を進め、2043年、初の魂分析装置を兵士を訓練する場に設けた。そこを、国防精鋭育成高校と言う。そして、魂を2色以上持つものを、アナイアレイターと呼ぶ。


レイと桃花がこれから通う高校は、アナイアレイターのための高校だ。日本を敵国の侵攻から守るためや、他国から情報を集めるといったことを学ぶためにある、国防精鋭育成高校。この学校では、敵と相対した時に戦うための戦闘技術部門。そしていくつかのグループに別れて戦う時にリーダーとして仲間をまとめるための戦略技術部門。仲間の武装を作るための開発技術部門に分かれている。一年まではどれも統一されているが、2年からはそれぞれに分かれる。卒業してからは新しく設立された国防軍に入ることを義務付けられていた。


戦争が始まり、輸送手段がなくなると、当然物価も上がる。中には、今までは普通に手に入っていたものが、入手できなくなっていたりと、社会は大混乱した。それに加え、隕石によってコアダイトが取れなくなり、移動手段や生活用品までが機能しなくなると、ほとんどの人々がお金が足りない状況となった。当然、叔父の家にいるレイと桃花は、家具が売れないからと言う理不尽な理由でお払い箱になった。だが、叔父もそこまで無責任ではない。簡単に追い出すことはできなかったようだ。互いに追い出す方法と追い出される方法を考えるという、おかしな状況になったところに、国鋭校(国防精鋭育成高校)の話が飛んでくる。国鋭校は、全寮制で学費無料。さらには、食事まで付いているといるというではないか。叔父はすぐにこの話飛びついた。そして、全寮制ということは、叔父の家に帰る必要がないということで、レイと桃花もすぐに了承した。


事前に魂分析装置。通称SALで、レイと桃花には、魂が2色以上あることがわかっている。だが、何色なのか。とか、何色あるのか。とかは、通知されないシステムになっていた。


「やっとあの悪魔から逃げられたな…!!」


他にも新入生だろうと思われる人たちも歩いている中、レイは、小高い丘の上にある国鋭校を目指しながら言う。そんなレイの顔は、長年の悪魔から解き放たれて、肩の荷が降りたような、実に清々しい顔だった。この3年で成長し、身長が5cmばかり伸びている。雰囲気には若干鋭さが含まれていた。そのレイの隣を、同じく身長が少し伸び、170に届きそうなほどになった桃花が、レイに話しかけてくる。


「もう、兄さん!そんな感じだとこれから通う高校で痛い目見ますよ!いくら逃げだせたとは言っても、国鋭校は普通の高校じゃないんですから。」


どうやら、少しばかり心配しているようだ。レイは、国鋭校がどのような高校なのかを、もう一度しっかり思い出す。桃花の言う通り、国鋭校は確かに普通の高校とは違う。


「分かってるよ。軽い気持ちだと痛い目見るって。でも、息抜きも重要だぞ?桃花ももう少し肩の力抜いたいたほうがいいぞ。すぐバテちゃうからな。」


「はぁ、わかりました。もう少し気楽にいきます。…あ、着きましたよ」


桃花の言葉につられてレイは前を見る。すると、横に10人は並べられそうなほど大きい門があった。レイと桃花は門をくぐる。くぐって直ぐに目に入ったのは、両側いっぱいに桜並木だった。その桜並木のトンネルを歩いていると、目の前に電子看板が出ているところを発見する。そこには、こう書いてあった。


「あ、第1期新入生はこちらだってよ。丁寧に矢印までついてる。訓練館ホールだって。行こうぜ!」


「はい。行きましょう!兄さん!」


少し小走りになったレイと桃花。他の新入生たちとともに、訓練館ホールへと入っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

どうもこんにちは。こんばんは。作者のポテコンです。今回は苦手な説明会でしたが、いかがでしたでしょうか?少し盛りだくさんすぎて理解できなかったと言う人がいたらごめんなさい。少し詰めすぎた感がありますが、内容としてはよろしいかと。結構説明会は苦手なので誤字脱字、おかしな表現があった場合、報告してくれると助かります。最後に、この2話目を頑張ってここまで読んでくれてありがとうございます。これからも精一杯書かせていただくので、応援した下さると嬉しいです。では、また次回!

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ZERO・この戦場を突破せよ!! ポテコン&ラリスゥ @potekonrarisuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ