第29話 掃除夫

はーい、ちょっと掃除機かけますねぇ。ああ、座ったままで大丈夫ですよぉ。足をちょっと上げて貰えると助かりますー。


はーい、おじゃまさまでしたー。


え?わたしらの仕事について書きたい?はぁ、変わったお人ですねぇ。お話するほどのこと、あるかどうか。わたしらには分かりませんが。


構いませんよぉ。どうぞ、ついてらっしゃい。


あ、洗剤やら埃やら結構キツイですから、マスク着けた方が良いですよぉ。持ってなければ、一枚あげましょ。個別包装になっててねぇ、持ち運びに良いんですよこれが。


さあ、今日はエスカレーターも担当ですからね、みんなでやりますよ。


えぇ、そうです。お客さんが減った頃を見計らって、エスカレーターに乗って。壁から埃を落とすのが最初。その後は、3人ひと組、1人は洗剤を塗って、1人はブラシをかけて、最後の1人がクロスで拭う。これを2往復ばかし。これを登りと下りの両方でやります。


キレイになったでしょ?いつも見てなけりゃ分からないですけどね、案外手垢や埃はすぐ溜まるんで。


さ、次は通路。


ここもね、先に上の方の埃を落として、床を磨いて、最後に排水溝周り。


排水溝は大事ですよぉ。汚れやすいし、詰まると床が水浸しだし。今日は雨降ってなくて良かったぁ。雨が降るとね、床掃除は切ない。磨いても磨いても、お客さんの足跡がついちゃう。


いやぁ、使って貰わなきゃわたしらも掃除のやりがいがないですからねぇ。丁寧な仕事をしなきゃ気分が悪い、でも、どんなに丁寧にやっても次の日、いや、半日もしたら汚れる。その辺は、掃除の宿命ですよぉ。


そうですねぇ、家事はみんなそういう側面はあるでしょうねぇ。だからやる側は、時々ぎゃーってなっちゃう。やってもやっても、終わらないんですもん。


でもねぇ、まあわたしらがこうやってることで、ちっとでも気分良く過ごしてもらえるなら、嬉しいですよねぇ。

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