第15話 渓谷の茶屋

いらっしゃいませ!好きなお席にどうぞ。


お冷やお持ちしました。お決まりでしたらうかがいますが?


はい、餡蜜セットですね。お飲み物は。


ホットコーヒーで。はい、ご用意します。





お待たせしました。餡蜜セットです。


今日はお一人で?


写真を撮りにですか。いいですね。この近くに真っ赤な橋が架かってるんですが、もう御覧になりました?


あらっ、いいんですか?拝見します。


あらー、いいですねぇ。見慣れてるもんでも、こうやって誰かが写真にして下さるとまた違った感じがするもんですねぇ。


最近の携帯は随分綺麗に写真が撮れるんですね。うちの写真を撮ってネットに載せて下さる方もいたりして、あたしはこういうの弱くてさっぱりなんですけど、息子がみつけてきて見せてくれるんですよ。


あらま、お客さんも写真を見て?あらぁ、嬉しい。はあ、この方のねぇ。まあまあ、綺麗に撮ってもらったもんだ。


うちの店のかって?どの写真ですか?


あぁ、これはちょっと奥の方の窓際に飾ってる置物ですよ。いま持ってきましょう。


ふふ、写真だと随分大きく見えますけど、元は箸置きなんですよ、これ。


そうそう、なんとなく愛嬌がある顔してるでしょ?うなぎのくせに、ちょっとなでたくなるというか。ぱっと見て気に入って、買ってきたんですよ。


ええ、ええ、可愛く撮ってやってください。あ、お冷やのおかわりをお持ちしましょう。





どうぞ。


いいえー、一生懸命撮ってもらって、うなぎも喜んでるでしょ。


え、魚が居る場所ですか?ああ、写真用にねぇ。


うーん、川と言っても雨が降らないとそんなに水かさがないところなんでねぇ。水草は生えてるし鴨やらなにやら、鳥だけはいっぱい居るんですけど。


そうですね、立地もあるかもしれないです。ここの谷を出たらすぐ住宅街ですもんね。


あはは、別世界ね。確かに。ここだけ切り取ったみたいに、木が残ってますからね。


写真用なら、魚じゃないですけど、水を口から出す龍の像がありますよ。他の方も結構そこで写真撮られるみたいです。


ええ、此処を出たら道なりに。左手にお不動さんがありますから、そこの崖のところです。


はい、ありがとうございました。ちょうどですね。


いってらっしゃい。

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