第13話 閑章 セレナ・クッコローゼの恋愛事情

私の名はセレナ・クッコローゼ。


ミンストレイル王国の騎士隊に所属している。


騎士爵を国王より賜りこれでも貴族の端くれだ。


元は平民だったが日々の努力が実ったのか騎士隊長となり晴れて


陛下から爵位を手に入れることが出来た。



私は今非常に悩まされていた。



そう、婚活である。



普通騎士隊長にまで登り詰めれば引く手数多だとは思われるが原因が幾つも複雑に絡み合い私は齢22となった今でも独り身なのだ。


まず、貴族の跡継ぎの坊っちゃん共は自分より強い女を煙たがる。


もちろんそんなナヨナヨした男など此方から願い下げだ。



何人か交際を申し込んで来たが丁重にお断り(単純にタイプではなかったためあらゆる責め句で心をズタズタにし)したし、決闘を申し込んで来る(もちろんボコボコに倒した)奴もいた。



まぁ、返り討ちにしてしまったのが悪かったのか変な噂を流された。そう、私が女色であると。



根も葉もない噂なのだが、私の隊には腕の立ち、かつ見目麗しい女性が多いため、中々他人に受け入れて貰えないのだ。




更にとある任務の途中に左半身を火傷してしまい、大きな火傷痕が残ってしまった。



それが災いし、私を化け物でも見るかの様な目で見てくるのだ。



本当に悩ましい…。






ある日私はとある任務で北にある森に来ていた。



魔物の生息分布調査とダンジョン調査である。



この辺にはエルフの集落があるらしいのだが、領土拡大に躍起となっている国の上層部からの依頼だった。



だが、それが運の尽きだった。


森に潜入して三日目の夜、突如オーク達の襲撃を受けてしまったのだ。


醜い容姿に巌の様な肉体、騎士団からは嫌われている存在である。



警戒を怠らなければ普段の私達には取るに足らない存在だったのだが、見張り役の二名が恋愛話に夢中になり奇襲を受けたらしい。全く以て恥ずかしい話である。



気を失い、気がつくと木の蔦で拘束され地面に転がされていた。目の前には一体のオークが居り私の上に馬乗りになり今にも鎧を剥がそうとしていた。



「助…け…て…。助けて…!」



このまま死んでしまうのか…そんなのは嫌だ…。


私だって恋がしたい…。こんなところで…こんなところで死にたくない。



「ブヘヘ、ブヒィー」



「クッ……殺せ!!」



ついそんな言葉が出てしまった。


私の好きな恋愛小説の有名な台詞だった。



もうダメ……




そう思った時彼は突然現れた。




「死にさらせッ!おらッ!」



突然そんな言葉と共に現れた少年とも青年とも見て取れる男が禍々しい手甲ガントレットを手に嵌めオークを後ろから殴ったのだ。



オークの頭部は弾け飛び私はオークの返り血でその身を濡らした。



こ、これは!



私の好きな小説と全く同じシーンではないか?!


私は戦慄した。



剣と手甲ガントレットという獲物の違いはあれど、ヒロインが危険に晒された時助けてくれた冒険者と同じ状況なのだ。



彼は私を優しく見つめている。



ヤバい……惚れそうだ…。



22年間生きてきて初めて恋をしてしまったのかも知れない。



優しげな目元に、ちらりと覗く白い歯、伸びた黒髪、見たことのない服装をしていて私の好奇心を擽ってくる。



その時彼の後ろから何者かが現れた。



見目麗しい女性の形をしているが、肌は青く透けている。



『主殿、怪我はござらんか?むッ、その腕!まさか魔法でござるか?』



「あ…あぁ。何とか使えたみたいだ。そっちは大丈夫みたいだな!良かった。」



『ええ、大丈夫でござる。どうやらこの森では拙者の驚異となる敵は居らんようでござるな』



どうやら仲間の様だがまだ現状を把握出来てない。



すると青いのが私に近付きその手に持つ光の剣で私の体を拘束していた蔦を切ってくれた。



どういう関係なんだろうと思索していると彼が此方に手を差し出しこう言った。



「お怪我は有りませんか?」



「あ、あぁ…この度は助太刀頂き感謝致す。」



思わずそんな風に反射的に返してしまった。


あぁ、何て凛々しい声なんだ…!私は胸が高鳴っているのを自覚した。



彼は私の姿を見てこう言った。



「返り血を浴びてますね。ブルース、水を出してくれ!」



『承知でござる!』



青いのが突然私の側の地面に剣を突き立てた瞬間、大地がボンッと音を立てはぜる。



私は驚きの声を上げた。何なんだあの青い女は?



続けて呪文を唱え大量の水をその場に出し池が出来上がった。



彼はそれを見て徐に服を脱ぎ始め肌着を濡らした。


むむっ!なんて素晴らしい腹筋だ!は、背筋はどうなってるんだ?


って違う!


彼の行動が理解出来ず、私は思わず尋ねてしまう。



「と、突然、服を脱ぐとはにゃに事だ?はっ!」



うぅっ、噛んでしまった。しかも不遜な物言いになってしまった…うぅ…。だが彼はそんなのお構いなしに懇切丁寧にこう伝えてくれた。



「これで血を拭ってください。女性が返り血に染まっているのは見るに耐えません。不快とは思いますが、持ち合わせがないので着ていた物ですが良ければ使ってください。話はそれからしましょう。」




なんて優しさに溢れた方なんだだろう。



後から気付いたがもう私はこの瞬間に彼に確実に惚れてしまっていた。



それから顔を拭う。



はぁ…はぁ…男臭くなくていい臭いだ。


なんか変態みたいだな私…。


だが止められない…。


顔を拭い終わった頃には彼の鍛えられた身体には服が着直されていた。


うぅ…もうちょっとだけ見たかった。



自己紹介をする。彼の名はソラト様と言うらしい。なんて素敵な名前なんだ。聞いたことない名前だが何処か異国の者なのだろうか。



私は緊張の為か不遜な物言いしか出来ない。もっと敬語を使えば良かった。こんなガサツな女は嫌われてしまうだろう、私の馬鹿ぁー!



ソラト様の背後にコボルトが突如現れそのまま移動することになった。



私の部隊の人間は全員青い女が拘束を解いてくれたらしい。いつの間に…?


考えれば考えるほど謎だ。


ソラト様はスライムと紹介していたが私が知っているのは不定形のスライムでありこんなにはっきりと人を象るものなんて見たことがないのだ。



これからソラト様に私の手料理を振る舞う。


緊張する…



だが胃袋を掴めばきっと私に興味を持ってくれる筈だ…!



頑張るぞ!




後書き

プロフィール



セレナ・クッコローゼ


騎士爵 22歳


趣味はぬいぐるみ集め 武器収集 筋トレ 恋愛小説


腹筋背筋フェチである


家は貴族街と平民街の間にあり部屋中の至るところにピンクとフリルをあしらった可愛らしい部屋に住む。お気に入りの大きな熊のぬいぐるみの名前はアンドリュー



好きな恋愛小説はエクレア・フランドール著


『恋は猪突猛進』シリーズ全七刊


他作品に『見合い話は突然に』『復讐の公爵令嬢~そして彼女は本当の愛を知る~』など


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