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9月1日 神田奈津


夏休みも明け、夏の尖っていた日差しも徐々に消えかかった頃。教室の片隅で、秋を感じる様な風に、彼女は独り吹かれていた。クラスメートが登校する1時間前の朝。グラウンドには、夏の試合が終わり、3年生が引退したばかりの野球部やサッカー部の掛け声が聞こえた。


「やっぱり1番かよ!本当に隙がないな。」


【うわ、勉強の妨げ到来。】


突然教室に入ってきた男子。彼の名前は大島空。夏に野球部を引退した。奈津とはとあるきっかけで仲良くなったものの、クラスメートには隠している。少し臆病な所が最近の悩み。


「野球部の後輩は大丈夫なの?

あんたの代、人数多かったからすっかり寂しくなっちゃったけど。」


「俺の後輩だから、大丈夫だって!」


「ふーん。そういうもん?」


彼は、情けないほど 頼りがい がないが、その不思議な鋭いカンで今まで難なく人生をやり過ごしてきたのは確かだった。テストもなかなか取れてる方だし、野球部も県大会まで進んだと、彼女は聞いていたからだ。


奈津は水筒に入っていた烏龍茶を飲み干し、自分の勉強に目を戻した。古文の内容は泥棒の話。彼女は不吉だと思いながら、嫌々解き始めた。


【あさまし、あさまし...】


「ねえ、あさましってどういう意味だっけ」


「あさまし?驚く とか 呆れる じゃなかったか?」


「そっか、ありがとう」


「なんだよー。冷たいじゃん。」


「お腹いたいの。ごめんなさいね。」

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