宣言にして独占欲

 恵当けいとは晴れて中学生になった。


 わたしはお祝いに濃いブルーのフリクションと替えインクをプレゼントした。ちょっと微妙な表情してたけど。


 そしてわたしの高校と恵当の中学の敷地は隣同士。グラウンドさえ横切れば塀も何もなく行き来自由。


「嶺紗。なにさっきから中学の校舎見てんの?」

「ん? 彼氏がいるから」

「はい?」


 3年生のクラス替えでもまた同じになった梨子リーコ啓吾けいごが声を揃えた。

 ちなみに啓吾は二年生の時にわたしに告白してきたけれども、ごめん、友達としてしか見れない、と断ったらあっさりわかったと交友関係になんのヒビも入っていないという間柄だ。


 その啓吾がわたしにジト目で訊いてくる。


「嶺紗ならホントそうで怖いな」

「だってホントだもん」


 なら証拠を、という話になった。

 それをそのまますぐ実行に移してしまうのがこのトリオのいけないところなんだけれども。


「こんにちは」

「おいおい」


 1年生の教室でその辺にいる子に声をかけようとしたら啓吾が目を丸くしてわたしを呼び止めた。


「なに」

「1年なのか!?」

「うん。なにかまずい?」

「いや・・・3月まで小学生だった、ってことだよな?」

「だから?」


 啓吾を無視して男の子に訊いたら、恵当は部活の体験入部で体育館に行っているという。ちょっと意外だったけれどもバドミントン部が第一候補らしい。


「こんにちはー」


 そう言って3人で体育館に入る。

 見覚えのある中堅ぽい女の先生が梨子に声をかけてきた。


「あら。久しぶり」

「あ、遠藤先生、ご無沙汰してます」


 そういえば梨子は中学で女子バド部だった。わたしは接点がなかったけど、遠藤先生は今でも顧問をしておられるんだ。


「隣同士なのになかなか会えないわね。今日はどうしたの?」

「この子の彼氏を見に来ました」

「彼氏!?」


 わたしは遠藤先生に挨拶する。


「こんにちは、町東まちとうと申します。有塚くんって、今いいですか?」

「あ、ああ・・・一年生の体験入部の子ね? ちょっと待っててね」


 遠藤先生は目に疑問符を浮かべながら向こうでストレッチをしてるちびっこ軍団の方へ歩いて行った。

 まさか、「彼女が来てるよ」などとは言わないと思うけど。


 そのままぼうっと見てると恵当が歩いてこっちに向かってきた。


 うん、かわいい。


 可愛らしい一年生の中でも特にちっこくて可愛い。


 自慢だわね。


「こんにちは」


 恵当がわたしたちに挨拶すると、啓吾は、おう、という感じで手を挙げて応える。梨子も、ちゃっす、という感じで頷く。


「どうしたの、?」


 おおー、呼び捨てだぜー、といちいちざわめく啓吾をほったらかしにしてわたしは恵当に2人を紹介する。


「わたしの友達の梨子と啓吾。お隣さんになったから紹介しとこうと思って」


 そう言うと恵当は胸をピン、と張って再度自己紹介する。


「嶺紗の彼氏の恵当です。いつも嶺紗がお世話になってます」

「マジかよっ!?」


 啓吾のびっくり声に合わせてヒュー、っと口笛を吹く真似をする梨子。

 それにしても恵当の堂々たる態度にはわたしも実は悪い気はしない。


 そして、もうひとつ。


『なんて小説映えのするリアクションする子なの!』


 と心の中でわたしは大喜びしている。


「じゃあ、練習の途中ですので失礼します」


 そう言って恵当は駆けて行った。


 なにしてたんだ、と先輩に訊かれて、「すみません、彼女が来てたものですから」と答えると、「なにー!?」というアニメでしか見たことのないような光景が目に入ってきた。


「すごいね、恵当くん。まあ堂々として男らしい」

「いーだろー」


 わたしは腰に手を当ててない胸を反り返らせ、梨子にドヤ顔をする。


「でもあれだね。嶺紗が20歳はたちの時、彼は14か」

「そうだね」

「嶺紗が30の時は24」

「それ以上は言わないで」


 3人でグラウンドをまた高校の方に向かって戻った。

 そういえば啓吾がずっと無口になってたのがなんか気持ち悪いな。


 ・・・・・・・・・・・・・


 家に戻ってとりあえず受験勉強をした後、コンテスト用の投稿小説を更新した。以下、今日の出来事のノベライズ。ちなみに小説の中の彼女は20歳、彼氏は18歳という設定にしてある。


『わたしは彼の遠征先に乗り込んだ。

 彼はインカレの最終節を戦っており、この最後の一戦で彼の大学の優勝が決まる。

 ただ、彼は、昨日の負傷によってベンチに下がっていた。


「彼に会わせてください」

「あなたは?」

「彼の恋人です」


 わたしが監督に告げると、一緒についてきてくれたケンゴが言った。


「悔しいけど、俺よりあいつの方が輝いてるよ。俺もあいつなら応援できる」

「ケンゴ・・・」

「あ、来たわよ」


 リッコの言葉に目を上げると彼が走ってくるところだった。


 立ち止まり、向き合うわたしと彼。


「勝って」

「ああ。わかった」


 たった、それだけ。

 彼は監督の元へダッシュで向かう。


「何してたんだ!?」

「大切な人が来てたんです。監督。俺は高校の頃から自制し、誰の目に留まらずともトレーニングを続けてきてました。負傷はものの数じゃありません。俺を出してください!」

「・・・・・わかった。おい、交代だ!」


 彼はその場で激しすぎるアップを始めた。


「よし。投稿・・・っと」


 更新して数分すると、コメントが入ってきた。


 リーコ:昼ドラみたい。

 ケイゴ:ふざけんな! なんだこれ!?


「ほほほ。あ、もうひとつ」


 KEITO:今日は来てくれて嬉しかった。



 なるほど。

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