第4話


「ねぇお義兄さん。聞かせて下さい。お義兄さんが愛す最後の女性は、姉さんですか?」




 これからも、ずっと――。




 過去は変えられないけれど。


 人生のその刻々で、それぞれ愛した女性は、いただろうけれど。




 それでも最後は姉さんだけだと、聞かせて欲しかった。




「うん」




 僕を見上げ、見つめたままで、義兄さんは言ってくれる。




「俺がこれ以降、由美以外の女性を愛する事はないよ」




 心からの言葉だと、判ったから。


 僕は本当に、嬉しかったんだ。




 礼を伝えた僕から片手を離して、「おいで」と僕の腰に手を回す。腰を引かれて、必然的に裕文さんを跨ぐ感じでソファに膝を付いた。


 驚いて、裕文さんを見下ろす。




「そして誓うよ。俺が愛する『男』は、これまでも、これからも。浩次君だけだって」




 僕を見上げ、微笑み言ってくれた裕文さんが、これ以上ないくらいに愛おしい。


 この人は、まるで魔法使いの呪文のように。言葉だけで、こんなにも僕を幸せにしてくれるのだ。




 頭を引き寄せられて、口付けられる。





   

 ――優しい、優しいキス。






 大切なものに触れるように、ゆっくりと、丁寧に。何度も何度も唇を重ねられた。




 大好きだと、あなたをこんなにも愛していると、洩れる吐息に含ませ伝える。


 そのまま抱き寄せられると、暖かく幸せな想いに包まれた。




 ――のに。




「あ、いけない!」


 漂ってきた焦げ臭いにおいに、慌てて裕文さんから離れた。


 油の方は火を消したけれど、カレーの方は火を点けたままなのを忘れていた。




 慌てて混ぜても、鍋底にしっかりと焦げ付いている。


「あ、焦げちゃった?」


 僕の肩越しに鍋を覗き込んで笑う裕文さんには、溜め息が洩れた。




「……もう。笑い事じゃないですよ」

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