第3話


「いいえ、聞きたいです。……姉さんの話」


 ねぇ聞かせて、とねだると「そう?」とようやく裕文さんが続きを話してくれる。




「由美もさ、結婚前に俺の家にご飯作りに来てくれた事があったんだけど、やけどして。その時は油をたっぷりひいたフライパンに、濡れたままのじゃがいもを勢い良く入れてね、すごい音をさせていたよ」


「――へ……えぇ…」


 初めて聞く話に、笑みが零れてしまう。




 幸せそうに話す裕文さんを見るのも、なんだか嬉しかった。




「その時にね、由美も言ったんだ。『考え事してたのよ』って。――ね? やっぱり姉弟でしょ?」


 隣から僕を見て笑う裕文さんに、「ははっ」と笑い返した。


「ほんとだ」


「なんだろなぁー。俺が付き合うコって、『ウッカリ屋さん』が多いのかもなぁ……。前に付き合ってたコも――…」


「ストップ」


 口を開けたままの裕文さんを、軽く睨んだ。


「そっちは聞きたくありません」




 驚いた顔で僕を見返した裕文さんが、「ごめんね」と微笑んで薬箱に軟膏をしまう。




 僕は立ち上がって、裕文さんの前へと立った。


 両手を差し出せば、裕文さんも応えて両手で握ってくれる。




 そうして、僕を見上げた。

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