第6話


 僕に背中を向けて、氷水でタオルを濡らす裕文さんに、「えっ」と声が洩れる。


「あ……」


 先輩と別れてからずっと、涙が止まらなかった。


 あの場所からも動けなくて。――きっとこの風邪も、長い時間あの場所に立ち竦んでいたからに違いなかった。




「あ……今日、卒業式で。お世話になった先輩が、卒業しちゃって」


「――それで、泣いたの? そんなに目が、腫れるくらい?」


 その言い方から、彼があまり信じていないことが判る。


「でも、その先輩、遠くに行ってしまう人で。もう戻って来ないって言うんです……。僕、その言葉で姉さんのこと、思い出しちゃって」


 絞ったタオルを持って再び前に屈んだ裕文さんを見る。そうして、その手に握られたタオルへと視線を落とした。


「もう2度と会えないんなら、死んだ姉さんと一緒だって、思ってしまって……。僕の前から消えて、2度と現れてくれないから」


「…………好きだったの? その、先輩のこと」


「……はい。とても」


 言った僕に、裕文さんが小さく息を吐く。


 僕に冷たいタオルを渡すと、立ち上がった。




「そんなに好きなら」




 そう、裕文さんが言う。


 冷たい物言いに感じたのは、僕の気のせいかもしれない。

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