第5話

「再婚は、しないんですか?」


 昼食を食べながら訊いた僕に、裕文さんは手を止める。


 今まで見た事もない、怒ったような顔で目を剥いた。


 そうして少し、寂しそうな笑顔を浮かべる。


「そうだね……。まだ、しないかな」


「いつまで?」


 呟くように訊いて。


 姉さんの何回忌になったら再婚するんだよ、と八つ当たり気味に切り返していた。


「……浩次君が結婚するまでは絶対しない、かな」




 初めて。


 裕文さんを「残酷だ」と思った。 




「そんなの……僕がいつまでも結婚しなかったらどうすんの?」


 困らせようと思った。


 父親気取り、兄気取りでいるのなら。駄々をこねる子供のように、ただ困らせてやろうと思った。


「それなら……。いつまでも俺だって再婚しないね」



 ――死ぬまでよろしく。



 まるで結婚式の誓いのような事を言って、笑っている。


「……変わってるね、お義兄さん」


 呆れ気味に僕がそう言っても、裕文さんは楽しそうに笑い続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る