第4話

 翌日の土曜日。


 僕は義兄の裕文さんと買物に出掛けていた。


 案の定と言おうか。お人好しの裕文さんは、自分の服はそこそこに、僕の服選びに奮闘している。


「なんでも良いですよ」


「ダメダメ。ちゃんと格好良い服着なきゃ、せっかくの男前が台無しだよ」


 ――男前なのはあなたです。


 そう返したかったが、言ったら最後、顔から火を吹くだろうから止めにした。


「浩次君は青より黒の方が似合うかなぁ? 黒に赤や紫っていう組み合わせもあるよねぇ」


 うーん、どうしようかなぁ…と、真剣に悩んでくれている。


 裕文さんはいつだって、こんな感じだ。


 僕が遠慮しないように、 僕が肩身の狭い思いをしないように、いつでも気を遣ってくれている。


「服なんて、本当にいらない」




 その代わり、あなたとずっと一緒に居たい――。




 僕がそう言ったなら、この人はどうするんだろうか。


「いいよ」


 なんて、きっと言うんだろう。


 僕の『本当の望み』にも気付かずに、ずっと義兄として、僕の傍に居続けてくれるのだ。


 それでも――いいかなぁ。


 なんて思ってしまう僕は、いつからこんな『寂しがりや』になってしまったんだろう……。


 自嘲気味に、笑ってしまう。


「バカだな、僕は。こんなの、姉さんに合わせる顔なんてないじゃないか」




 いつまで経っても、裕文さんは僕の『姉さんの旦那さん』で。


 どんなにご飯作りを頑張っても、僕は裕文さんにとって『妻の弟』だ。




 この関係は、変わる筈もない。




 いつだって僕達の間には、姉さんが必要だ。


 姉さん越しの、関係。 




「お義兄さん」


 まだ真剣に悩んでくれている裕文さんに、僕は笑顔を浮かべる。


「ん?」


「お腹、すきました」

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