第3話

 姉が亡くなってからも、僕を本当の兄弟のように養い続けてくれていた。


 きっと思ってる――。




「キミを育てるのに随分苦労したから、由美は早死にしたんだ」


 なんて言葉も、口にしないで。




 僕だって思ってる。


 僕のために無茶をしたから、姉さんは病気になったんだって。


 だから、絶対幸せになって欲しかった。


 これから裕文さんと幸せになれる筈、だったのに。 




 ひたすら、申し訳なくて……。




「だけどお義兄さん、あのね」


 だからこそ、言わなきゃ。


 僕が大学に行く事を裕文さんは望んでくれているけれど、これ以上お義兄さんに迷惑はかけられないって。


 高校卒業したら就職して、この家を出て行くって。


 ちゃんと言わなきゃ、いけないのに――。 


 なのに震えようとする情けない唇を、一瞬強く噛んで、 僕は口を開いた。


「あの」


「だけど、そうだな。来年受験だって言っても、息抜きは必要だよな」


「……はい?」


 肉じゃがのじゃがいもを幸せそうに口へと運んだ義兄は、にっこりと魅力的に笑ってみせる。


「ちょうど新しい上着が欲しいと思っていたところなんだ。明日の休み、買いに行くの付き合ってくれないかな? 浩次君」


「…………」



 その笑顔を向けられて、今まで断れた人なんていたんですか? と。


 僕は真顔で義兄へと訊いてみたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る