第13話 明日まで

 そろそろ昼。息を切らしたリュシーに水を飲ませぶっかけ、休ませる。山道もロクに歩けないらしい。文句を言う事もなくなったのを見るに、疲れてしまったのだろう。

 飯がわりの果実をもいで食べているリュシーは、半分も食べていない。……帰りは、どうするのだろうか。


「ねぇ、キツネさん?」

「なんだ?」


 木漏れ日のなか、真剣な顔でこちらを見るリュシーが何度目かの「あとどのくらい?」を聞いてくる。実際、行程の半分も進んでいないのだが。ウソをついても意味は無いだろう。


「この分だと3日はかかるな。」

「みっ……分かった。」


 疲れから開けていた口を閉じ、以降リュシーは黙りこくった。




 数回、採集のためにリュシーから離れて行動する。手つかずの森だ。奥へは行かないようにしよう。

 日が落ちた頃に戻った俺は、リュシーの足元に置いたままの果実を見つけた。仕方の無い子だ。ひざを抱え、俯いているが腹を空かせたら食うだろう……周りの青を威嚇しておこう。


 火を焚いていない森は暗い。青たちはコソコソと動いているようだ。面倒でも穴や臭いの壁を作っておくべきだったか。今から赤い実を食ってもなぁ。そういえば出発前や移動中にも食べていたのに出ないな? ん? と、腰を動かしているとトーンの低い声を掛けられた。


「……何、その動き。」

「出そうで出ない時ってやつだ。気になるか?」

「目の前で動かれたらって、まさかココでしないでよ?」

「近い方が寄ってこないぞ?」

「出そうとしたら指つっこむから。」


 何かがヒュッとした。あえて言うまい。初めてリュシーから白にも負けない気迫を感じた。これからは少し考えよう。

 隣の木まで歩いたところでリュシーがソワソワしだした。戻ってみるとホッとしたようで……見えなくなると不安、か。人間は厄介だな。風下にモノふんばったアレを埋めておく。青は寄ってこないだろう。

 事を終え戻ると、リュシーが少しだけ離れた。何か気になるのだろう。良く分からん。


「リュシー、ここは静かすぎる森だ。動けるなら移動しよう。」

「足痛いもん。」

「それでも、だ。夜のうちに、奥から怖いのが来るかもしれないぞ?」

「な、何? 怖くないもん……ちなみに、どんなの?」


 強がってまぁ。足元の実をリュシーの口に押し付けて食わせる。バレバレなんだよ。まったく。後ろを向き尻尾を膝に置いてやると、のそのそと撫で始めた。

 撫で方が落ち着いた頃、リュシーに横目を向ける。俺の言いたい事は伝わっているだろう。


 目を逸らしても事態は好転しない。

 だからこそ今ここにいるリュシーは動けるはずだ。

 野生動物の鳴き声が森に響くと、リュシーはビクっと体を震わせ言った。


「分かったから、行くから。」

「食いながら歩け。いくぞ。」


 歩き出した俺の後ろで小さく「怖いのに。」とボヤくのがリュシーらしい。

 一つ山を越えてしまえば安全だろうとゆっくり進んでいると、森の奥から地響きが聞こえてきた。

 ……遠吠えか。厄介な。


「リュシー、足を止めるなよ。」

「何、あの音。」

「歓迎されていない、って事だ。」


 

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キツの業 あるまたく @arumataku

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