第三章 三種の神器を祀る熱田神宮

第9話 新幹線で名古屋へ

「お、いたいた!おーい!!」

6月の某日―――――――――――新横浜駅の新幹線乗り場付近にて、健次郎が手を振る。

「悪ぃ…。電車が遅延していて…」

そう口にしながら現れたのが、集合時間より少し遅れて到着したはじめだった。

「じゃあ、はじめも来たし、ホームへ移動しましょうか!」

そう告げた私は、鞄から新幹線の切符を取り出す。

「ところで、川コンビ。二人共、売店でドリンクの引き換え済ませたか?」

「あ…!!そうだ、忘れていたわ!!!」

改札を通ろうとする私に対し、健次郎が確認するような口調で問いかけて来る。

どうやらはじめも忘れていたらしく、すぐにドリンク引換券を取り出したのであった。


今回神社巡りをするための目的地が愛知県にあるため、交通費がテンマ持ちという事もあり、新横浜駅から新幹線で向かう事となる。また、この出発日を金曜日にしたのは、理由がある。それは、健次郎が珍しく休みである事と、私やはじめが有給休暇を取得できそうという話になったからだ。

それによって、金曜日・土曜日を使った一泊二日の遠出となったのである。

因みに、先程健次郎が述べていた“ドリンク引き換え券”とは、今回新幹線の切符予約に辺り、お買い得という意味合いで選んだプランだった。

「本来の新幹線より安く済む上に、好きなドリンクと引き換えできるチケットが一緒に貰えるのは、いいよなぁ!」

「えぇ。教えてくれた裕美に、感謝ね!」

ホームで新幹線を待っている間、私と健次郎が今回の切符の話をしていた。

「ところで、外川とがわ東海林しょうじは今日、何時ごろに到着する予定なんだ?」

すると、今度は会話にはじめが入ってくる。

「えっと…。確か、21時9分に名古屋駅着予定って言っていたよ」

はじめに尋ねられた私は、裕美とのやり取りをしていたLINEのメッセージを再度確認する。

今回、私とはじめが有休を取得できたのに対し、裕美は仕事上の都合で休みを取る事ができなかった。そのため、彼女は仕事を終えた後に直行で新横浜から新幹線に乗り、名古屋駅で合流する予定となっている。

東海林あいつの職場が、横浜方面で良かったかもな」

「うん。職場が東京都内だと東京駅からでも新幹線は乗れるけど、東京駅あそこは広くて迷いやすいからね」

はじめが裕美の話をしていて、私はそれに同調する。

というのも、新横浜駅は主に東海道新幹線の停車駅につき、東京駅と比べると新幹線の乗り場が非常に解りやすい。

 過去に東京駅から新幹線に乗った事あったけど、本気マジで迷ったからな…

会話をする一方で、私はそんな事を考えていたのである。

「おや。どうやら、新幹線が来そうですよ」

すると、先程までずっと黙っていたテンマが、私達に対して声をかける。


その後新幹線に乗り込んだ私達は、目的地である名古屋に着くまでのんびりと過ごしていた。座席としては、進行方向へ向いた状態で前の方にはじめと健次郎。その後ろに私が座るという状態だ。

『というか、テンマ!そこの席、次の駅とかで他のお客さんが座るかもしれないのに…!』

新横浜を出発した後、私はスマートフォンにメッセージを書き込んでから、そのメッセージをテンマに見せる。

「…あぁ、声に出したら変に怪しまれますしね」

テンマは状況を察知したようだが、私が言いたい事はそれではなかった。

というのも、今は空席となっている隣席にテンマが座っていて、しかも彼は割と大きな体格をしているために座っているととても近く感じるのだ。

「朝が早めで眠いかと思いますが…。今のうちに、今回の予定を確認しておきましょう」

その台詞ことばを聞いた私は、黙ったまま首を縦に頷く。

そして、鞄にしまっていた自分の手帳を取り出し、そこに書かれた手書きメモをテンマに見せる。

「…成程。東海林しょうじ様のいない本日は、名古屋駅に到着後にお昼休憩。その後、名古屋城を含むいくつかの観光地を回り、ホテルへチェックイン。夕飯を名古屋駅前で済ませ、21時過ぎに東海林しょうじ様と合流…。そして、一泊した翌日に今回の目的地である、熱田神宮へ向かうというご予定ですね」

私が書き込んだメモを、テンマは読み上げるように述べる。

『熱田神宮のご祭神は、熱田大神・天照大御神・素戔嗚尊すさのおのみことと、日本武尊やまとたけるのみことだから…。今回は、日本武尊やまとたけるのみことの話を語る予定かしら?』

私は、この日を迎えるまでに下調べしていた内容を書き、テンマに確認を取るような疑問文をスマートフォンに入力する。

「はい。その通りですよ、美沙様。流石に3宇目となると、わたしが如何なる語りをするかがお分かりになってきたようですね」

私の疑問文を見たテンマは、感心したような口調で述べていた。

 …心がこもっていないような気がするのは、気のせいか…?

私は、横目で彼を見ながら、そんな事を考えていたのである。

「因みに、3宇目の“宇”は神社の数え方です。“1社・2社”の“社”を使う人間かたもいると思いますがね」

「成程…」

すると、テンマが少し補足説明をしてくれたため、この時だけは私も声を出していたのである。

その後、到着するまでひと眠りをする事にした。

「はい、おやすみなさいませ。美沙様」

「ん…」

穏やかな笑みを浮かべたテンマが、そう口にする。

眠気が非常に強まっていた私は、はっきりと頷く前に瞳を閉じていた。途中の停車駅で私の隣席に座るお客さんが来る可能性もあるため、テンマは一度新幹線内の別の場所へ移動しようとしたが、その前に何かを思い出したのか、私の耳元に顔を近づけて口を開く。

「貴女様が、わたしにとって“満足のできる結果”を実現できるようになる事を、期待しておりますよ」

耳元でそう囁いた彼は、その後に新幹線の席を後にする。

眠りにつこうとしていたとはいえ、何となく聴こえていた台詞ことばだったが―――――――――眠りから覚めた後、何故か今の台詞ことばを忘れているのであった。



「おぉ、これが名古屋城か…!」

健次郎が、そう告げながら瞳を子供のように輝かせていた。

あれから名古屋駅に到着した私達は、駅前でお昼ご飯を食べる。そして、大きな荷物をコインロッカーに預けた後、身軽になった状態で私達は名古屋城へ向かっていた。

 お城といえば、地元にあった館山城しか見た事なかったからな…。こうやって、他の城を見れるのって、新鮮…

私も、持参したデジタルカメラで写真を撮りながら、その光景を堪能していた。

一方で、はじめだけが少しだるそうな表情かおをしている事に、私は気が付く。

はじめ…大丈夫?どこかだるい??」

気になった私は、彼に問いかける。

「ん…?あぁ、体調は今の所問題ねぇよ。ただ…何か、目やにが…」

問いかけられたはじめは、そう告げながら左目についている目やにを取っていた。

「お…!?」

すると、今度は健次郎の声が響く。

「あ…ここだと邪魔になるから、少し端っこに寄ろう!」

会話を続けようとしたが、後ろからは名古屋城ここに入って来た観光客が絶える事なく入ってきたため、邪魔になると思った私は、彼らにそう提案する。

そして、少し端の方へ避けた私達はその後、健次郎が何に驚いたのかを尋ねる。

「…いや、何か小川の後ろに変な物体が見えたと思ったが…。まぁ、気のせいか!」

健次郎の答えは、少し曖昧な内容だった。

「そう…?じゃあ、ひとまず進みましょうか!」

”特に問題なさそう“と判断した私は、奥へ進むことを提案する。

私は気が付かなかったが、周りにいる観光客の中でごく少数の人々から、はじめが見られている状態となっていた。


その後、名古屋城の本丸に入った私達は、他の観光客達が進む方向に従って、中を見学していく。表書院や上洛殿。また、各所に飾られている壁画等、名古屋城ここの事を詳しく知らなくても、見ごたえのある場所が多い。

 外国人も、結構見に来ているなぁ…

私は展示物をみる一方、日本人観光客に限らず、外国人観光客も多い状態を目にしていた。

「おい」

すると、私の後ろを歩いていたはじめが、私と健次郎に声をかけてくる。

本丸ここを出てからでもいいから、少し休んでもいいか?歩きすぎたのか、左足が痛くて…」

「おい…大丈夫か?」

はじめの提案を聞いた健次郎が、心配そうに彼を見つめる。

「まぁ、どこかにぶつけた訳でもねぇから…休憩でもすれば、治ると思うぜ」

「……では、二ノ丸の方に休憩所があります。そこで一度、休憩を取りましょう」

はじめが苦笑いを浮かべながらそう述べる一方、先程までずっと黙っていたテンマが少しを細めた状態で休憩場所を提案する。

 いつもはポーカーフェイスを崩す事がほとんどないのに、どうしたんだろう…?

私は、彼らのやり取りを見守りながら、そんな事を考えていた。


その後、本丸を出た私達は、庭園や梅林のある二ノ丸を訪れていた。

「ふー……」

休憩所にたどり着いた後、はじめはすぐにベンチへと腰掛ける。

「熱はー…うん、なさそうだね」

「お…おい!!?」

私は、彼の目の前に立っておでこに自分の右手を当てる。

熱がないかを何気なく確認した私だったが、距離が近かったせいかはじめは少し頬を赤らめていた。

「?健次郎、どうしたの…?」

はじめから離れた後に私が振り向くと、苦笑いを浮かべる健次郎の姿があった。

「…いや、外川とがわは天然なのか鈍いだけなのか…。って、ちょっと考えていただけかな」

すると、健次郎は私から視線を少し外しながら、そう答える。

「??」

私が首を傾げていると、健次郎の横で立っていたテンマがクスクスと笑っていたのである。

無論、私はテンマが笑っていた理由を全くわからないまま、一日を終える事になる。


「それはそうと…」

頃合いを見計らったのか、テンマが再び口を開く。

そして、ベンチに座るはじめの前に立つ。

「小川様…。お手数ですが、を閉じて戴いてもよろしいですか?」

「はぁ?何故…」

「…体調がよろしくない理由が、わかるかもしれません」

「え!?」

テンマに指示された事ではじめは不服そうだったが、彼が口にした台詞ことばを聞いた途端、目を丸くして驚く。

それは、近くで話を聞いていた私や健次郎も同様の反応を示していた。

はじめ…」

「…仕方ねぇな」

私が彼に視線を向けていると、根負けしたのか、はじめはゆっくりと瞼を閉じる。

「…失礼しますね」

一言述べたテンマは、はじめのおでこに自身の右手を乗せる。

その後、何かを口にしていたようだが、声は出していないために何を口にしているのかは聞き取れなかった。

「あ…。さっきの奴…か…!!?」

「健次郎…?」

すると、健次郎が目を丸くして驚いているのを、私は確認する。

「狐…!!?」

私も再びはじめの方を振り向くと、視えた光景に対して目を丸くして驚く。

「成程。体調不良の原因は、“これ”だったのですね…」

その後、視えた“何か”の正体を知っているような口ぶりで、テンマが述べる。

私達の視線の先に視えたのは――――――――――はじめの背後に存在し、左目が白目になっている狐なのであった。

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