9-3

 一瞬で表情を変えた梢に、理恩はやれやれとため息を吐いた。


「ったく、誰が成長したって?」


 すると、梢の両手が理恩の首元へ真っ直ぐに伸びた。

 それを理恩は条件反射でさっと躱す。


「もう! 逃げないでよね! でもこのやり取りすら幸せに感じる!」

「おまえ……まさか」


 理恩の言葉に梢は満面の笑みを浮かべた。


「そう、まさかの優花だよーん! 理恩憑き付きの補助霊としてたった今任命されました! ただいま!」

「ただいま! じゃねえ! 成仏したんじゃねえのか!」


 墓地にはおよそ似つかわしくない怒号が響き渡る。呆れ返る理恩を前にして優花は舌を出し、敬礼をしてみせた。


 補助霊とは、守護霊の一種であり、その名の通りメインの守護霊たちのサポート的な役割りをするものである。


「大体、補助霊って……。だったら俺じゃなくて家族に憑くのが普通だろが」

「迷ったんだけどね。やっぱり理恩と離れるのはちょっと」

「ちょっとじゃねえ。大体また梢使いやがって」

「梢ちゃんとはもう友達だもん。これからも近くでふたりをサポートするね! てか、なに? 運命って。くわしく!」

「あー、うるせえうるせえ。帰るぞ」

「あ、待って! 角煮持って帰ろ!」




 理恩と梢。果たして今後、このふたりの間に恋は生まれるのか。



 ――最大のミステリーである。



 



【了】

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ゼロの体温 蒼月 彌砂 @MICKY09189

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