エピローグ

 魔王(スライム)を倒してから1ヶ月ほどが経ちましたが、間切殿と治殿は平和に過ごしているご様子。


 平和なのはよろしいのですが、むしろ平和すぎて、バカップルと化しつつあるのが玉に瑕でござろうか。


 まあ、バカップルをしているのは間切殿だけで、治殿は振り回されているだけのように見えますが。



「治殿、幸せそうでございますなぁ」



 ですから、こうして二学期が始まり、治殿と学校で顔を合わせた際、茶化すのはとても楽しいでござるなぁ。



「東海……、君、そう見える……?」



 と、大分げっそりとしている治殿。机にだらんと倒れる姿は、たしかに、元気はなさそうでござった。とはいえ、幸せ疲れに見える次第。



「見えるでござるよ?」



「それなら、君の目は腐っているね……」



 失敬な。我の目はピカピカピチピチでござるというのに。



「とはいえ、仲良くやっているようではござらんか。あれから、襲撃もないようで、良きかなよきかな」



「僕はインドア派なんだ……、間切の体力についていくのは、ちょっときつい」



 ……まさかそこまで進んでいたとは、驚きでござる。


 確かに、間切殿の家にお邪魔していることも何度かあるようですが、まさか。



「が、学生のうちは、き、きき、きちんとわきまえるでござるよ? こ、子供などできた日には、大変でござるから」



「……いや、君の思ってるようなことは、一切してないから。アィースポーツってやつ。ちょっと古いけど、その分安かったから二人でお金出し合って買ったんだけど……きつい」



「なるほど」



 それを聞いて、個人的に一安心でござろうか。


 ……安心したところで、ちょっとおじさん臭かったかなと、反省でござる。今時、セクハラとか、色々と厳しいでござるからなぁ。


 今の姿ならば、あまり問題はなさそうではありますが。



「運動不足でござるよ?」



「君に言われたくないんだけど」



 治殿は、我の腹を見てきたでござる。失敬な、これは変身であって、実際の我は、もっとほっそりしているというのに。


 ……最近は、ほんの少し、そう、ほんの少しだけ、肥満が気になってはきておりますがな。


 とはいえ、ここでそんなことを言うわけにもいかず、我はさらりと流すことにするのでござる。



「体調の方は、あれから問題はござらんか?」



「んー……ちょっと体はだるい、かな?」



 そうでござろうなぁ。普段あまり使わない魔力を、唐突に全部吐き出すようなことをすれば、多少は後遺症が残ると言うもの。とはいえ、筋肉痛のようなものなので、問題は特にはないのでござろうが。



「家では早くに寝たほうがいいですぞ」



「そうする」



 とはいえ、それを治殿に言うことはないでござる。筋肉痛のようなもの、つまりは、魔力量が増えると言うことに他なりませぬ。治殿ほどの面倒くさがり屋だあれば問題はないかもしれませんが、調子に乗って魔力を増やそうものなら、いつ魔物、あるいは魔王クラスに目をつけられるかわからんですぞ。


 殺されるのはもちろん、力を利用しようとする輩もいないとは限りませんからな。



「おはようございます、先輩♡」



 と、治殿と雑談をしていると、教室に入るやいなや、駆け寄ってきたのは間切殿でござった。


 正直、ちょっと怖いところはありますが、治殿を好いているのは事実のご様子。一週間以上も泳がせての結論でござるからして、おそらくは間違いないでしょう。


 特にこれといって何をするでもなく、間切殿には好きにさせているでござる。


 治殿の力が見つかれば、利用しようとする輩は、あとを絶たないでございましょう。その点、間切殿は安心でござるしなぁ。


 治殿が捕まってしまうと、魔法使い同士での争いが激化するかもしれませんぞ。我としても、今の平穏が壊されるのは、少しばかり遠慮願いたい次第。


 そのために治殿を保護対象としているのでござるが、今のところ平和で何よりですな。



「間切、朝は教室まで来ないでっていってるのに」



「いいじゃないですか、お弁当、届けに来てるだけなんですし」



 間切殿は「はい、どうぞ」とピンク色の布に包まれた弁当とおもわしき物を差し出しました。本当に念のため、透視で中身を確認させて貰えば、確かにただの弁当でござる。


 間切殿は魔力の使い方こそひどいですが、その量は尋常ではござらん。ホースの放出口を限りなく広げての魔力放出が、間切殿の今の状態でござる。雑以外の何者でもないですぞ。



 それでも、我が彼女と正面からやり合えばこちらが負ける可能性があると言うのですから、本当に賢者の魔力というものは理不尽でござる。



 まあ、あくまで正面からやれば、という条件ですが。



「まあ……ありがとう」



「えへへ、どういたしまして♡」



「…………」



 監視している時は結構に離れているのでよかったのでござるが、こうして目の前でイチャイチャされると、DTなおじさんには、少々、心にくるものがあるでござるな……、いえ、嫉妬しているとかそういうわけではないのですがな、ええ、決して。


 でも、



「それ、教室でやるとはどうかと思いますぞ……?」



 先程から、教室内のクラスメイト様方が、こちらを見ているでござるよ……?



「それ、僕も前、いったよ。やめろって」



「周りのゴミムシの目なんか気にする必要ありませんよっ! それに、悪い虫が先輩につかないようにしないと! ただでさえ、先輩、かっこいいのに」



「あ、はい……、でも、僕、そんなモテないけど」



「ここの連中は目が腐っているので」



「…………」



 間切殿は相変わらずですな……、治殿の顔面偏差値は平均より少しばかり上だとは思いますが、人と付き合うのが苦手なのか、あまり友達を作ろうとはしませんから、異性も、あまりよっては来ないと思いますが、



「えへへ♡」



「…………」



 それを言うと、間切殿が怒るので言えませんが。


 何はともあれ、



「平和ですなぁ」



 良きかな、良きかな。

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断れない系男子がヤンデレ魔法少女に好かれたら 巫女服をこよなく愛する人 @Nachun

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