第28話 勇者のセーブ15

その時だった





体はが急に他の力に引っ張られる感覚を覚えて


目の前のコボルトがどんどん遠くに見えるまで森の方に引き込まれていく。





急に木々の間で減速したのを感じると今度は前に飛び出しそうになって


また後ろに引かれた。





よく見ると蜘蛛の巣が張ってあって、

トランポリンのように俺を受け止めてくれたようだ。








「全く、アタシが離脱させなかったら危なかったじゃないの」





そう言って近づいてきたのはボルナだった。








「あ、ありがとう。たすかっ」





そう言い掛けて自分は頬をビンタされた








「アンタなんで本当のこと言わないのよ!命をなんだと思ってるの!?」





いきなりのことに狼狽していて大声まで浴びせかけられて、


また少し泣きそうになった。





でも彼女は顔は険しくとも、

何か怒っているというよりかは本気で心配そうな目だった。





「アンタ...本当は勇者でも何でもないんでしょ?」





そう言われて何も言えなくなった。





勇者になることなど夢でしかない、





その自分が勇者として仕事を任された。





そんなことに俺はほんの少し舞い上がっていたのかもしれない。





どうしようもない修行生活の始まりで不安であった心境に向き直らなくていい





今、目の前の仕事に集中すればきっと事は良くなる。





そんな考えは甘えだったんだ......











「フロイン、この人をあのテントまで送りなさい」





周りの大蜘蛛の内、一匹が俺の前にまで来て姿勢を低くした








「その子に乗って行って、今の偽者勇者様に興味は無いわ」








そう言い放つと彼女はテントとは別の方向に蜘蛛を連れて行ってしまった。


呆然と見つめていると目の前の大蜘蛛が甲高い声を上げて怒った。





「あ、ああ!ごめんごめん。乗らせてもらうよ、その...よろしくね、フロイン...?」





そう申し訳なさそうに謝って恐る恐る、聞いた名を呼ぶと落ち着いた。











乗るとすぐに出発してドンドンと速度が上がる。





吹き付ける風を全身に感じて、





生きている事の実感と





先ほどの情けない敗北感にまた涙が出てきた。





過ぎ行く景色の中、昼間よりも森がよく見えるほど月が明るかった





その景色を悔しさと共に





忘れることはないだろう





そう思った











「ありがとう、フロイン」





テントのある開けた場所にまで来ると、


ゆっくりと降ろしてもらった後に礼を言った。








何か心が通じ合ったような気がして、


もうこの大蜘蛛達への苦手意識は無くなった。





夜に光る赤い眼光を少しこちらに向けてフロインは群れの元へと帰っていった。








明日には......





しっかりボルナに謝ろう














そう思い直すと





すぐに、テントの寝袋に入ると悔恨も感動も疲労に負けて深い眠りに入った。


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必死に努力してチート級スキル「打ち止め破壊」を得た最弱魔王が、最強と呼ばれし勇者達に復讐しつつ魔王の頂点の座も狙ってみせる。一方孤児院育ちの兵士が盗賊にクラスチェンジから無双して、最強勇者を目指す。 晃矢 琉仁 @Nur

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