第27話 勇者のセーブ14

「グルルルゥゥ...!」








喉を鳴らして威嚇してくる、


ただ犬とは違って直立して俺より高い目線から。





本当に目の前のおじいさんは二本足で立つ狼になってしまった。


体格の膨張によって破かれた衣装の下に着ていた簡素な防具が露わになった。








噂に名高い狼男に違いない、


だがどこかではっきりとした見覚えが......








そうして記憶をまさぐっていると


そのまま襲ってくるかと思いきや、


クルッと向きを変えて門の方に歩いていく。





一体、なんのつもりだ...?








その答えはすぐに分かった








「ガアアッッ!!」








ひとッ飛びのうちに上段からの振り下ろしが予測出来るほどの


飛距離を見せてきた





狼男の万力の叩きつけを難なくよけた。





手に握られているのは手斧だ。





木こりの使うサイズよりもずっとコンパクトだ。








だから門の近くにあったというのに全く気付かなかった





そしてその斧と防具を装備した姿を見て、先ほどの見覚えが鮮明に蘇った





奴は、コボルトだ!








「グラアアッッ!!」





今度は腕を思いっきり横に振って来ようと迫る。





並みの脚力ではない、もう目の前だ








「うっ!」





喉への狙いが奴の目線から読み取れなければ殺られていた。





首を逸らしながら腰の剣をお返しに奴の喉に抜き払った








「ウガァ!」





上体がが反れながらの剣は深くまでは届かなかったが、首を確かに切った。





とっさの逆手持ちから両手持ちに切り替えて構えなおす。








相手もこちらの力量を少しは悟ったようだ、首からの出血もお構い無しに





更に殺気に満ちた眼光を向けて体勢を低くして構える。








唸って剥き出しにしている牙にも気を付けたい。





先ほどからせっかく敵がコボルトだと分かったのだから、


何か役に立つ情報は覚えていないのかと考えるが

緊張感もあってまるで思いつかない。








今度は低い姿勢からの払いだ、


それでも丁度自分の胸元辺りに刃を何度も右から左から振るってくる。





胸の前で受ける刃のぶつかり合いの火花が段々と目の高さまで上がってくる





「ガアアッッ!!」





コボルトの両手払いに剣が飛ばされそうになった所を上段で構えてきた





兜ごと頭蓋も割ってくるつもりだ





そう反射的に剣を横に、


上からの勢いに対するガードの構えを両手を上げて取った。








そこを突かれた











そのままに上からの全力の叩きつけはおろか、





俺を襲った衝撃は腹に来た








わざと大振りに上段に構えを取ったのは陽動で





奴の下半身に目線を向けないためだ。








片足でがら空きのボディを蹴っ飛ばされた





「グホッ!」








尋常でない脚力をもろに受けて体が飛んだ





数秒は空中にいるような感じがして





転がって受けた衝撃が終わると


すぐに腹部に激痛が走った。











早く立ち上がらなければ...!





しかし、腹部に受けた攻撃は重く


息が上手く出来ず体が言うことを聞かない。





じわじわと聞いてくるボディブローを集約して喰らったかのような一撃は、


ごっそりと体の自由を奪った。





「ぐっ...はあっ!」





地面に横たわって胎児のように体を折り曲げて見える目線からは


奴がゆっくりと歩いてくる獣の二つ足だけが見えた。





奴の表情は分からない、


コボルトは獣人の体にネコ科の残酷性を増したような性格を持つ。





人に近い知性・感情からは残忍で

憎たらしい余裕の表情を浮かべているやもしれない。








だが我が肉体は痛みに呻くばかりで呼吸が精いっぱいだ。











深い絶望に心が埋め尽くされる








今度こそ終わりなのか......?








ここでもう?








俺の目標もあこがれも夢も








人生も...?











そんな、








そんなこと...!!











「く、クソォォ...!!」








弱々しく吐く息に悔しさが滲んだ








そして





涙でいっぱいの視界を





地面からぼやけた目線を少し上げると





そこにはもう奴がいた








すぐ近くに











「ガアアッッ...!!」








勝利の確信に腹からの唸り





奴の足の踵が上がった





力いっぱいの振りかぶりが想像できる








あやまたず





絶命の一撃が振り下ろされた。

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