魔王の謀略

第19話 魔王のセーブ9

さあ、数日経って待ちに待った魔王集会だ。





いつも嫌気が差して向かうものが、


こんなに晴れやかな気持ちで行く事に笑わずにはいられない。





作戦の事を思うとまだ子供の気分が抜け切らず、


悪戯心もあってワクワクドキドキしている。








そうして我が城を馬車で出発すると、少しの手勢を連れて会場に向かった。





通常であれば魔王集会は年に少なくても1度、


多いときは3度訪れる行事であり、


その移動をパレードのように自分の土地を

盛り上げて行うことがルールのようにされている。





ただ当然我がリベリオヌス家は聖界と一番に隣接している領地であるために、


民が移住してきて出来る城下町などというものはなく、


何事も無く領地を出る。





他の魔王は戦争にでも向かうような兵を引き連れて会場に向かい、


そこで兵力を見せびらかすような輩も少なくない。





新しい兵器や見るからに強そうな部下を目立たせて行進させる者までいる。








そんな中で我が軍の総戦力は周りの魔王軍に比べ微々たるものだ。





それを更に少なくして今回連れて行くのだから、


会場である魔界の中心地・センタルの住民からの笑い声が飛んできた。








「はっはっはっ!おい、見ろよアレ!


 遅れてきたのが誰かと思ったら人間の魔王のとこのじゃねえか! 


 なんだ、あの寡兵はよぉ~ハッハッハ!」





「いつも少ねえがありゃひでえなあ!」








そう、この大歓迎だ。


本当に前まではこれが堪え難いものだった。


連れて行く兵士達にも恥ずかしい思いをさせているのを


申し訳なく感じながら歯ぎしりすることしか出来なかった。








しかし





今は違う。


俺を含めた全員が笑い声を喝采のように受けて誇らしげだ。





全員がこの嘲る声が最後だということを確信しているからだ。





今のうちに笑いたいだけ、笑え








そう胸を張って少数で会場に向かう一行が逆に不気味に思えたのか、


いつもより騒がれずにセンタル会議城・ダルクスに入場した。








ダルクスは我が城とは比べ物にならないほど盛大な大きさで、


聖界からもその城が見えるほどと噂されている。





魔王の集合場所として豪華絢爛な装飾を施しながら、


昼間では考えられないほど夜には


おぞましい巨大な城に見える作りになっているのだから脱帽する。








そうしてリベリオヌス家専用の部屋まで通される。


ここでもいつも通り案内係から敬語ながら小ばかにされたような感じで


一番小さな客室へと連れられた。


遅刻していることもあって、


早急に来るように、と付け加えられてニタニタしてそいつは失せた。





入ってみると本当に狭く思えてならない、


うちの会議室と良い勝負だ。








だが、





そんなことも今の俺には何も腹立たしいことではない。








「持ってきたな?アトリック」





「はい、こちらに...」





コイツ が密偵から届くのに時間も掛かって遅刻したがこれで全て揃った。








「さ、みんな手筈通り持つもの持ったな」








警備係や荷物運びとしての少数の配下の同伴は会議でも許されている。


そいつらの持ち物を確認して指示通り早急に部屋を出ようとドアを開けた。











「では、いってらっしゃいませ」





残りの部屋に残る部下たちが頭を下げる。


今までにない後押しの力強さと期待の念押しを部下の声に感じた。








「ああ、他の魔王様どもを待たせちゃ悪いからな。楽しみに待っててくれ」








そう言って部屋を後にした。

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