第20話 魔王のセーブ10

会議室に続く厳かな階段が見えた。








見張りの男二人の間を通り抜けて会議室のドアの前に立つ前に


同伴する者達の表情を確認する。





さすがに緊張しているようだが大丈夫そうだ。





「よし、行くぞ皆」








そう言うと重々しい赤塗りのドアを開いた。








見えた光景は例年通りだがどうにも慣れないのは雰囲気だ。





それぞれの地域を統治する12の魔王の内7人が


とてつもなく奥に長いテーブルを囲って座っていた。





中は教会のような造りでありながら神聖さなどない。


実際テーブルは食事をするように白いテーブルクロスに


ロウソクを立てる燭台がある。








この堅苦しい晩餐会が始まりそうな雰囲気が自分は大嫌いなのだが......





いや、弱音を吐いてはダメだ


今回はいつもの目立たないようにしてきた控えめな態度ではなく、








「申し訳御座いません、皆々様。野暮用で遅くなりました」








強気に行くんだ。











「野暮用...とは何ですかなシュヴァッハ王子、いえ今は王であらせられましたか」





魔王どもがくつくつと笑う。


定番の魔王集会の司会を務める、魔王代表の御付き役・アエターのボケだ。


人間の身である俺は王になってから長いのに体格が小さいままであることを


弄ってくるのだ。





よく見るとそのアエターの主人・魔王代表のファインデルはまた不在の様だ。


本来魔王の中でも一番の強さと認められたものが代表として


威厳を持って会議を取り仕切ることが決まりだが、


今やファインデルが出てくる事はほぼ無くアエターが司会であることが常だ。








「いや~申し訳ない。この会議で宣伝しておきたい代物がありましてね」








いつもなら馬鹿にされて黙って席について


隣の魔王・オプファーに追い討ちで何か言われるところだが、


すぐにはこの目立つ位置からどいてはやらない。











「...何を持ってきたというのですか」





そう静かにアエテーが質問すると


訝しげに周りが俺の発言に声密やかに話し合う中、


部下たちがケースに入ったズィーラを取り出してテーブルに置いた。





もう中では瘴気を出し続けて装備がかなり変形している。





取り出された代物にギョッとする者から、


興味津々に見てくる者まで様々だ。








「これはズィーラ、聖界では経験値などとも呼ばれています。


 ご覧の通り皆さん大好きなどす黒い色を放っていますが...」





もう一つのケースには装備の破片がくっきりと

見えるほどクリアなオーラが出ている。





「こちらが本来の姿です。勇者から剥いだ直後はこの様でした」








瘴気を出し続けてどうしようも無かった中から上手いこと抽出して貰ったものだ。


急ぎでウェイズにやって貰ったので城の研究所で倒れているかもしれない。








「い、今勇者からと、おっしゃられましたか?」





眼鏡の奥でいつも嫌らしく笑っていた目が今は泳ぎ、


身を乗り出してズレた眼鏡の位置を焦って直している。








「ああ、そうです。先日勇者を運良く倒しましてね~


 そして勇者の形見なんて俺もさっさと捨てさせようと思ったんですが、


 あらびっくり。こんな風になっていましてね...」








お前たちが小ばかにした魔法であっさり勝った、と言えればどれだけ気分の良いことか





だが、ここはグッと我慢する。








それに明らかに怪しい話を全員が半信半疑で釘付けに聞いている様も悪いものじゃない。











さあ、もっと揺さぶってやるとするか


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