第10話  魔王のセーブ6

「これは...」





あまりの光景に口を突いてでたのは驚きの感情だった。





目の前にあるのは神聖な祝福とやらが施された装備であろうが、


現在手の届く距離まで近くにある


その武具や防具から信じられないほどの瘴気が出ている。








「そちらこそ我らが呼んでいるズィーラの可視化された


 状態と受け取って頂いて結構で御座います。」








薄暗いこの研究所で、


蛍光培養液のぼんやりとして照らされて出てきた声の主はガーゴイル族の


ウェイズだ。





彼は長年この研究所の局長を務めており、


様々な種族入り乱れるチームをよくまとめてくれている。





特徴的なのは石像に化けて出ることが有名なガーゴイル族は、


人間と同じ程度の体格があることが一般的だが


彼は人間の子供程度の身長しかない。








「そしてこの今や邪気に満たされ尽くしているズィーラにございますが、


 こちらは人の身に在らせられながら魔界に住む者、つまり魔王様にしか


 適合しないものとなっております。」








かなりの大発見であろうが彼は顔も羽もピクリともせず、


淡々と説明した。











「その件だが...」





「知らせは来ております。


 何でもこちらの力の直接的利用は魔王様のお気に召さないとか...」











恒例のしかめっ面だ。


これを還元魔法研究時代に何度見たことか。





俺は母の残した指示通りにやった点も多かったが、


何より自身が使うのだから我流にならざるを得ない場面も多々あった。


母の現役時代から助手として雇われていたウェイズにとっては


かなり目に余る行動であったのだろう、

まるで厳しい側面の母だけがいるようだった......。








「良いですか、シュヴァッハ様。


 あなたという人は人の身にあるがために


 よく感情という論理的でないものに憑かれて行動をなされますが...」








ああ、始まってしまった。


こうなったらずっと感情で動くことが多い俺がどれだけ愚かであるかを


小一時間話し尽くすまで気が収まらないのだ。





これを自身の立場を考えれば


黙れ、の一言で済むところであろうが


何となくそうしたくない気持ちと、

母の様だがいつの間にか父親代わりにも感じているために、


ウェイズにそういった態度は取れなくなってしまったのだ。








最後にそんな態度を取ったのも、


幼い頃だ。


年上に対して無作法だと怒られ返されただけだったように思う。


目上なのは俺なのになぁ......と、思いながら


熱くなって怒るウェイズを前に大人気なさというものを学んだものだ。








そう、幼い頃に想いを馳せると


父や母を思い出した。








いや、駄目だ。


思い出せばまた弱くなってしまう。


もうガキの頃のように悲しみに暮れることは、もう今の俺には許されない。





こういう時は恨みを思い出すんだ。


いつもそうやって弱い人間の部分を殺してきた。








そうだ......


俺はその「人間」であることをよく周りの魔王の息子や娘に馬鹿にされた。


直接ではないがその親共も思っていたことだろう。吹聴していたかもしれない。


人間はこの魔界では貧弱で、


純粋な人間がこの世界に移住しようとすることは無いし、

弱くて出来ないだろうとされた。


だから人間の女が望まない妊娠の末に生まれた

穢れた血脈の魔王呼ばわりをずっとされ続けていた。





インキュバスと人間のハーフだとも言われた......!


違う!俺は誇り高き純粋な魔界に住む人間だ!そのはずだ!


まだ奴らにされた侮蔑の分の復讐は果たせていないんだ......!





勇者を殺し、浮かれて丸くなっていた自分に急に腹が立ってきた。


まだ、だ。


まだ母を始め、


父や殺されていった大事な家臣たちの分の復讐は果たせていないんだ......!











そう憤ると自然と力んでいたらしい。


大気を震わすような魔力放出に説教に夢中だったウェイズが腰を抜かしている。








「す、すまない。少し取り乱していた...」





わなわなと立ち上がったウェイズは平静を取り戻そうと質問してくる。








「そ、それで魔王様...


 このズィーラは...ど、どうなさるおつもりで?」





一回深呼吸を置いて、力を抜いて肩を落とすとキッパリ答えた。











「そいつを周りの魔王どもとの交渉に使う。だからしっかり保存しておけ。


 どうにしろ勇者の装備なんて適当に宝箱になんて詰めて放って置いたら、


 後続の勇者に持ってかれちまうんだからな」

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