魔王の新発見

第9話  魔王のセーブ5

さて、


憎き因縁の勇者を倒した翌日ではあるが我が場内は大忙しの様だ。


自身はというと魔王らしいというか、

慢心に浸かってしまったかいつもより遅い起床だ。





さすがに長年を掛けて築き上げた魔法がしっかりと予想以上の効き目を表し、


難なく強敵と思われる相手を一蹴したので気が抜けてしまった。





それでさっきアトリックのキスで目を覚ますところだった。


危険な気配と気分の良くなる香水の様な匂いに気付いて飛び起きたのだ。


彼女の顔はすぐそこだった。








「あら~、残念ですわ陛下」








コロコロと笑って誤魔化していたが、


あの目はどう見ても笑っていなかった。


狩人の目と言ったところか。





そしてようやく朝のドッキリイベントもそこそこに場内の広間に出てくると、


忙しくなく動く部下達が見えた。











「何かあったかアトリック?


 俺の記憶には勇者の身につけていた防具やらを調査しておけとの指令を


 俺自ら出したが...そのせいか?」








「ええ、仰るとおりですわ陛下。


 しかしここまで慌しい事態になるとは思ってもみないほどの


 成果を上げたようです...」








不敵な笑みで見つめてくる彼女はまさに魔女のようだったが、


どうやら俺に朗報のようだ。





「してその成果とは?」





彼女はもったいぶるように含み笑いをすると、








「勇者が纏い強大になるとされるズィーラ、


 通称「経験値」ですがあれとは似て異なる、


 魔王様にお力添えをする要素が亡き勇者の武具から検出されたのです...」








衝撃の事実を聞かされた。


まさかこのような収穫があるとは......喜ばしいことだ。





しかし......








「当然、俺はそれを吸収したりはせんぞ」








流石に今回ばかりの俺の発言には彼女には珍しく驚きを隠せていないようだ。








「勘違いしてくれるな。


 俺は確かに奴ら勇者が身に纏う装備には、


 何かしらの有益な情報があると睨んで調査をさせた。


 しかしそれは情報として理由するだけにあって、


 あの憎たらしい勇者から検出された要素で強くなるだなんて冗談じゃない。」











きっぱりと突っぱねると俺の気分をひどく害してしまったと思えた、


即座にアトリックは跪いて深々と俺に頭を垂れた。








「これは大変な失礼を...私めのご無礼をお許しください...」








相変わらず身分を弁えた女だと苦笑してため息が出る。








「安心しろ、上流階級の魔王でも同じことを考えるだろうさ。


 でも俺には奴らにはないプライドがある。


 勇者を容易く倒せるようになった今、


 自身の強さを上げていくのに勇者から得る恩恵など必要ない」








未だ頭を上げず彼女は賛同の意を表してきた。





「その通りでございます、陛下。


 今や母君から継承なされた還元魔法を極めし


 あなた様に敵う者などございません」








それは世辞などではない本心から出た信頼の一言なのだろう。


こいつだけではない、俺のこの力には場内にいる誰もが絶対の信頼を寄せている。


アトリックに頭を上げさせ、小さく指示した。





「躍起になって俺への朗報を無駄にしないようにしている働き者共に伝えろ。


 飯を食って休息を取れ、と。


 ぶっ倒れられちゃ後が困るからな。」











そう言うと、


俺はアトリックが場内全体に指示を送ったのを背に感じながら


一人その勇者の形見から検出された新要素とやらを


研究所{ラボ}に確認しにその場を去った

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