勇者の旅立ち

第11話  勇者のセーブ5

目が覚めるとそこは兵舎の救護室の簡素なベッドの上だった。


どうやらゼフトスに担がれてここまで運ばれたようだ、何とも情けない。








「ああ...いててて...」





起き上がろうとすると右腕が痛んだ。


熊とのぶつかり合いの際に受けたダメージだろう、

外傷はないが極度の筋肉痛のようだ。





周りには誰もいない、

窓が開いていて暖かな日差しと風に揺れるカーテンが音を鳴らすだけだ。


当然怪我人がいないに越した事はない。





ただ、この無人の空間に自分だけがポツンといることが


周りの同僚達に取り残されてしまっているように感じてならなかった。








「はあ...」





さっきの戦闘でせめて一人で華麗に立ち回って、


仲間の救援まで時間を稼いだという体になれば立派なものだが、


あれは必死の抵抗でギリギリ助けてもらっただけだ。





それも追い抜かしてやろうという憧れの男に。





何が出来るわけでもない、急に立ち去っては迷惑をかける。


どさっとまたベッドに倒れると虚無感が襲ってきた。








「...またか」








簡素のベッドの感触と目の前の石造りの天井が孤児院時代を思い出す。


あの時も同じような感慨に襲われた。








幼年期にはよく親のいる生活について考えさせられたことがある。


親がいないことは物心つく前であったこともあって大して悲しくはなかった。





この地域は子供達の教育にも力を入れていて、


孤児院からでも公共の学校に通うことを勧められていた。





というより強制に近かった。


シスターさん達としても断る理由はない、

所詮孤児院だって街の金で作られたんだ。


街の教育推進化の意向に子供が納得しなかろうが、

孤児院としては従わざるを得ない。








そうして待っているのは孤児院と一般の子供が分けられたクラスだ。


正直これは助かった。








真意としては孤児と一般的な家庭の子供を同じクラスにすると、


一般的な家庭の子の方に悪影響が出るとの考えだろうが、


嫌がらせはいつもあっちから孤児の俺達に向いた。








孤児院出身の俺達は誰でも孤児{みなしご}呼ばわりをされたり、


幼年期にありがちないたずらの格好の的にされたりと学校に行くのが嫌だった。





何より一番馬鹿にされたことは親がいないことだった。





俺は憤慨して怒る孤児クラスメイトを必死に止める側だったが、


言われて何も感じない訳じゃなかった。








一日の終わり、

いつも寝付けない俺は何とか少ない楽しい思い出を引っ張り出しては


それに浸って眠るのが日課だった。





そうすれば夢の中だけでも楽しい思いが出来るからだ。





だがある時は親のいないことを言われたことが

もやもやと浮かんできてしまうこともあった。


しかし悲しい訳でもなく、


それでいて親がいたらどんな生活が出来ただろうか、


そんなことを頑張ってイメージしようにも

子供の俺には大した想像力が無くて分からなかった。





そしてただただ虚しくなった。








その虚無感が今、兵士という街の花形になっても思い出されるとは......





なんと俺という人間が虚無であるか......








そんな哀愁に浸っていると救護室のドアが開けられた。








「よお、スターク。顔色は良さそうじゃねえか」

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