第4話 魔王のセーブ4

「ふう~...」





今でも完遂した復讐の一幕を思い返し、甘美な溜息を湯船に浸かりながら吐いた。





ここは専用浴場、

何とか党首らしく自身専用の風呂場だけはこさえなくては、と作ったスペースだ。





明かりは蝋燭の火のみであり、

部屋の至るところにアメジストを部屋に飾ることによって


紫色にライトアップされる怪しげな空間を表現している、つもりだ。


自分は魔王らしい装飾だと思っているのだが......些か子供っぽかっただろうか。





外に見える月も紫に着色されているようで......


やはり自分はこういう色合いが好みなのだと、恍惚とする。





「失礼します...」





ん......?


急に入ってくるはずのない来客にバッと振り返りながらも、


冷静に声の主を探る。


いや、探る必要もない


この声はどうやっても聞き間違うはずがない、アトリックの声だ。








「陛下のお背中を流しに来ました~」








いやいや、

なんでそうなるんだよと思いながら隠遁魔法ラワンマでさっと気配を消す。


俺の隠遁魔法は透明化の域まで行ってる。


問題は水中にいれば明らかに不自然に波立つことだが......。





キョロキョロと俺のいる浴槽まで来る。





心臓が鼓動する度にほんの少し水面に波紋が出来る。


しかしここで動悸がしない訳がない。





タオル一枚ではまるで隠せていない魅惑のボディが露わになっているのだから、


目も当てられない。実際薄目で状況を窺っている。





「あれ~、シュヴァッハ様いないのかしら~...」





どう見てもそれこそ不自然な動作だ、俺がここにいることは分かっている。


そしてその俺が狭い浴槽の中でどこにいるのか探している......





「なあんて!」





ピョーンと飛び掛かってきたのを華麗に横に避けて急いで上がった。


今のうち今のうち......





「逃げ切れると思ったんですか?」





ガシッと肩を捕まれた、思いのほか力が強い。





クソッ...致し方ない......!





「≪意識よ、沈まれ{フォーンリゼンターム}≫ッ!」





振り向きざまに消沈魔法ライザルを掛けてやった。





すると段々と目の照準が合わなくて遂には、力なく倒れこんだ。


なんとか貞操の危機を守ったのだ、正当防衛だと思って欲しい。





そう思いながらもさっさと着替えると、

メイドに浴室に倒れている淫魔を助けてやれ、と言っておいた。





ところ構わずサッキュバスは誰にでも欲情するが、アトリックは違う。


だが何故か俺に対してだけは夜になると、


本能によって魔王の持つ魔力にでも

反応するのか急にふしだらになってしまうようだ。





やれやれ......


頼むから俺に対していつでもあの昼間の清楚なお前でいておくれよ......。


そう届かぬであろう、祈りを胸中にベッドに倒れた。











壮絶であると見込んだ今朝の決意に満ちた目覚めとは裏腹に、





あっさりと一日の終わりの就寝に入る魔王なのであった。


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