第3話 魔王のセーブ3

すると艶やかな声が聞こえてきた。





「見事な雪辱戦にございました、陛下...」





俺の側近、サッキュバスのアトリックだ。





「よくやったぞアトリック、

 お前とお前の配下のおかげで勝てたと言っても過言ではない。」





その言葉を聞き、傍まで近付いたアトリックは俺の前に跪いた。





「なんと光栄なお言葉...


 しかし、ひとえに此度の一戦の勝利は陛下の血の滲むような

 鍛錬が成し得たもの...。


 我々は、ほんのお力添えをさせて頂いただけに過ぎません...」





やはりこんな女は謙虚だ。


サッキュバスは不埒で低俗だと魔界ではもっぱら言われるが、

こいつに関してはそんなことは一切ない。


五大元素魔法は無論、

変身魔法から付加魔法の様々な分野に精通するだけの才を持つ。





それにこいつは自身の高い能力に驕り高ぶることもなく、誠実な性格もしている。


最下級の部下達にも余念のないしっかりとした教育を施しており、


日々この没落家系であるリベリオヌス家の兵力増強にも勤しんでくれている。





更に加えて俺の身辺整理から身の回りの世話をしてくれているというのだから、


魔王ながら頭の下がる働きぶりだ。





言ってみれば部下の目線には彼女の立場は魔王よりも身近で指揮をしてくれる


重大な存在になっていることだろう。


こちらのそれこそ立場が危ういというものだ。





「それにしても...本当に長かったですね、ここまで...」





彼女はポッカリと天井から外壁までもが空いてしまった

この玉座の一室を眺めている。


今は亡き勇者の装備が転がっているが、


あれに刻まれた聖界の紋章を付けた者がうじゃうじゃと

この場所も蹂躙していたことは


忘れていない。








ここに来て耳を澄ましてみるとあの戦場で聞こえた剣が打ち合う音、戦士の悲痛な叫び声が蘇るようだ。


思い出したくない情景までもが目に浮かぶ。








この場所だけ改築せずに元のままにしたのは俺の意向だ。


あの時の悔しさを忘れまいと、


今は古錆びた玉座も、敵の砲台よって開けられた大きな穴も、


ただフラッと夕方時に来てみると夕日を受けて哀愁を漂している。





そんなところを眺められることに


価値があると思っている。





それに俺は決めていたんだ。








雑草まで生えだしてしまった空間だが、俺はここを決戦の場所に選ぼうと。











密偵にエレクゼルに果たし状を渡すよう指示し、ご自慢の装備でほどなくして飛んできた勇者は


敵の陣地に単身乗り込みながら自身満々であった。








「さあ、来てやったぜ魔王さんよ?


 おめえのお気に入りのペットを出しなよ、一捻りにしてやる。」








どうやら、まず手下が相手をしてくるものだと思っていたようだ。








「いや、もう最初から俺が相手をしよう」








すっと朽ちた玉座から立ち上がると間抜けな顔した勇者が見えた。








「ふん...そう悠長にやらずとも、すぐ終わるさ」








俺が余裕そうに言って歩み寄ると、

エレクゼルも臨戦態勢を取り歴戦の戦士の面持ちになった。








「...こんな前線にいる魔王が随分と度胸があるじゃねえか」








「ああ...では復讐といこうか」








豆鉄砲食らったみたいな顔をしたその後の勇者の末路はもうご存知の通りである。











「≪打ち止めよ、無に帰せ{リトゥーンベイターム}≫ッッ!!」

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