第44話 斎と笙花

「…」


影は無言だった。


「笙、お前何のために鬼の城を襲撃なんか…何が目的だ!」


怒号のような問い掛けにも無言を貫く。

斎は手を掴もうとした。しかし、それより先にひっこめられる。


「笙!」

「アンタにはわからないよ」


ぎりと、歯噛みする音がした。


「置いていかれる方の気持ちなんてわからない。わからなくていいよ。こんなつらい気持ち、斎は知らなくていい」


靄が薄くなっていく。眼前に、笙花が姿を現した。

緩く巻かれた髪が、靄に煽られて揺れる。左右で色違いの瞳は、斎を強く睨んでいた。


「何言ってんだお前…、!」

「アタシは」


笙花が腕を振り払う。靄が再び濃くなっていく。


「アタシは、あの子の為に任務を完遂しなきゃいけない!」


靄に視界を奪われた。掻き分けても掻き分けても、笙花の姿が見えることはない。加えて、今度は靄の中にはっきりと笙花の魔力が感じられる。


「笙! おい、話を聞け!」

「聞いたって何も変わらない! アタシがやることは、なにも!」


靄の中から爪による攻撃が繰り出される。それを避けながら、斎は手探りで笙花を探す。


「何が目的だ! あの子って、まさか」

「そうだよ。みゆちゃんだよ! みゆちゃんの決意を、アタシは…ッ」


一瞬、攻撃に迷いが生じた。

爪を避けながら、その先にある笙花本体に手を伸ばす。彼女は身動ぎして逃れようとしたが、それより先に斎がその胸倉を掴んだ。


靄が晴れていく。


宙ぶらりんの状態で、笙花は抵抗をしない。


「どういうことだ。最初から説明しろ」


胸倉を掴む斎の手から、血が滴り落ちる。

笙花は笑った。


「オンナノコ同士の秘密だよ」


いくら旦那さまでも教えられないな、と嘲笑したのち、笙花は掴んでいる斎の手首に爪を立てた。

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