第43話 斎

「ッ、くそ…!」


羽を広げて落下の勢いを殺した斎は、空中で一回転してから再び天守へと羽ばたいた。


「天道!」


部屋の中は既に靄で充満していた。天道の姿は見えない。斎は歯噛みしながら、靄の中に飛び込んだ。


確かに、今は幸岐の側に居てやるべきだとわかっている。しかし、だからと言って天道をこのまま見捨てるわけにはいかない。幸岐に胸を張って言えないようなことはしないと、結婚するときに誓った。

薄く結界を張り直して、靄の中に飛び込む。


「天道、天道! 返事しろ!」


靄を掻き分けるようにして進む。先ほど窓際にいたはずの天道は、もうそこにはいなかった。


ふと、足を止める。


知っている魔力がある。天道のものではない、もっと、昔から馴染みのある魔力。


「…笙…?」


返事は返ってこない。しかし、靄の中から真っ直ぐと斎の喉を狙った攻撃が放たれた。

間一髪それを躱すが、爪のような細く長いもので何度も攻撃をされる。


「ッこの…!」


伸ばされた爪を掴む。掌に血が滲む感覚を覚えながら、それを強引に折った。


「誰だ!」


靄の中は不透明で何も見えない。

しかしゆらゆらと人影のようなものが見え隠れする。


「…笙、なのか?」


揺れる影に手を伸ばした瞬間、何かに躓いた。

慌てて下を見ると、天道が倒れている。目の前の影に注意しながら、天道を抱き起こして距離を取った。


「天道! 天道!」


呼びかけても返事はない。口元に手を当てるとすやすやと寝息を立てている。とりあえず寝ているだけであることにほっとしながら、部屋の隅に天道を寝かせた。

こつりと、床をヒールが蹴る音がする。

見上げると、影が斎に近づいていた。ぼんやりとした様子で立つ上げに見下ろされる。


「誰だ」


再度問い掛けると、影が徐に手を伸ばしてきた。

そしてはっとする。


見覚えのある爪。先ほど折ったのは人差し指の爪だったようだ。カラフルに彩られたそれは、笙花が好んで施していた色。


「何をしている、笙!」

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