第39話 斎と狛

「襲撃⁉ 誰に⁉」


狛が叫んだ。斎は足早にその横を通り過ぎ、玄関の戸を開ける。

転がるように入ってきたのは、隣の山に住む天道という鬼の部下である都という鬼の子。顔をぐしゃぐしゃにしながら、斎に縋りつく。


「天道様が応戦しておりますが…ッ、相手は相当の手練れだと思われます、もう山の鬼の半分が無力化されてしまいました! どうか、どうかお助けください斎様!」

「相手は誰だ」

「わからないのです、靄が掛かっていて姿は認識できません。しかし天道様が止められないほどの強さから、相当高等な妖ではないかと…」


膝から崩れる都を立たせて状況を聞く。天道は斎と同じ純血に近い鬼であり、隣の山を治めている。今日も本当は彼のところに行く予定だった。


「申し訳ありません、幸岐様が体調を崩されている大変な時だということは知っております。しかし斎様にしか頼めないのです! どうか、天道様をお助けください!」


斎はくっと唇を噛んだ。

一刻も早く幸岐を迎えに行きたい気持ちはあった。突然出て行った理由はわからないが、彼女は体調を崩している。それに加えてこの雨だ。悪化していてもおかしくない。


しかし、天道は〝交渉相手〟だ。交渉を有利に進めるには、ここで手を貸しておいた方がいい。

唇の端が赤く滲んでいく。


「…斎、行けよ」

「ッでも!」

「いいから! 幸岐ちゃんのことは俺に任せておけ。正体不明で、しかも高等な相手はお前じゃなきゃ無理だ」


狛に背中を押された。ぐっと唇を拭って、都の腕を取る。


「行くぞ。飛ぶから掴まれ」

「ッ…ありがとうございます!」


黒い翼を召喚し、空に羽ばたく。

それを見送った狛は、山を下りる為変化して駆けだした。

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