第39話 強敵の友

■時刻は、【羊の時】・【王の時】・【女帝の時】・【猫の時】・【鼠の時】・【竜の時】・【犬の時】・【馬の時】・【蛇の時】・【牛の時】・【鳥の時】・【虫の時】の順に流れる、12の時の内■

■蛇の時を指し示す■


「お前を信じてたぜ、親友!」

「ああ、そうかい」


「ただの仲間です。船長と恋仲だなんて。そんなの、気持ち悪い……です。……いやらしい事、されたことはありますけど。無理矢理」

 少し悲しむような表情で、フィルさんは言った。美女にこんな顔をさせるとは……!!

 この外道がッ!!見損なったぞッ!!美女は、人類の宝だッ!!

「やっぱりかッ!!ジン太ァッ!!」

 紳士として、越えてはならないラインを!

「ねぇよ!?殺されるわッ!!」

 清楚系巨乳読書美少女が、そんな物騒なこと出来るわけないだろうがッ!!

 彼女はおしとやかで、争いを憎み、弱者に手をさしのべる、そんな人の筈だアッ。

「私は嫌だって言ってるのに、押し倒されて……うう、あんなことを……!」

「やめろぉ!!倒された覚えはあるが、倒した覚えはないッ!!」

 もう許せん!!

 ぶちのめしてやんよ……!!正義の心に従い、悪を討つ!!

「……ふふ」

 

 その後なんやかんやあって、僕の勘違いは消えた。

 フィルさんは、僕の想像とは少し違う人物かもしれない。

 

「だよなー!お前が、いちゃいちゃワールド突入とか、ありえねーよ!!」

「はいはい。お前の妄想も、ほどほどにな。フィルの冗談に、まんまと踊らされやがって」

 安心した。やっぱり、違うよなー!!ジン太があんな可愛い娘に、好意もたれるとか!!

 熱血野郎はモテない!僕の持論に、間違いなし!

「ふー。風が気持ちいいぜ……」

 夜風を浴びながら、僕は耳を澄ませた。

 周りの木々から響くは、虫の声。

 ここは家の近くにある、開けた訓練場。森の広場。

「さて。それじゃあ、一丁、戦いますか!!」

 僕は右手に持った木剣を、前に構えた。

 構えた先には、同じように木剣を持つ、友人。

「……イレギュラーを使って、良いのか?」

「良いっつってんだろ。そっちの方が、修行になる。遠慮なんかしないで、全力でこいや。へなちょこが!」

「分かった。後悔するなよ。前より、かなり上だぜ」

 やれやれ、余計な心配だ。

 お前がどれぐらい強くなったか知らんが、僕だってかなりの鍛錬を積んできたんだぜ!

(以前、戦った時は、僕の方が強かった)

 楽勝とは、行かなかったが。

 勝負が終わった後、ぶっ倒れるぐらいには苦戦した。


「……」

 

 ジン太は目を閉じ、木剣で肩を叩きながら、力を発動させようとしている。

 前の戦いでは、かなりの時間がかかっていたが……。

 イレギュラー。

 よく分からない、不思議な力。ストロングのような効果だが、発動速度を上げることは可能なのか。

(可能ならよ、早くなってるよな。当然)

 集中。凝視。注意。開始。

 十メートルほど離れて立つ奴の動きを、注視する。

(どう、来るか)

 とんとんとん、木剣が何度も肩を行ったり来たり。それ以外の、動きはない。

 あまりに静かすぎる、この状態。

 奴は、目を瞑ったまま。


 ――木剣を、投げつけた。 


(投擲!!これは!!)

 超スピードで、回転しながら襲いかかる木剣。

(発動速度!間に合うか!)

 間に合わなければ、回避を。

 だが、そうはならない。

(ブレード・陽炎――ソル!)


「うらぁっッ!!」


 一筋の光が、上から攻撃を打ち砕き、破片が視界を舞った。

 光は、僕が振った木剣から発せられるもので。

(真っ赤に輝く刀身――それが纏った、燃えさかる炎のようなもの)

 

 これが僕の武強(ブレード)!!陽炎(ソル)!!


(木剣は、粉々に)

 しかしこれは、目眩し。

 奴の姿は、前方にない。あるのは、土煙のみ。

 本命は、次の!

「後ろッ!!」

 体を捻り、振り返り、背後を斬り裂く!!

 完璧な、タイミング!!

 

(!?)

 

 攻撃は空を斬り、何にも当たらない。空しく何も残せない。

 振り返った視界には、身を沈めて蹴りを放つ奴の姿。

「ぐぼッ!?」

 腹に滑り込む、左足蹴り。

 めきめきと、食い込む足。

 想定外の、威力。

(大振り失敗、完全に避け、速、こりゃあ、メリッサにッ!?)

 驚愕と共に、吹き飛ぶ体。

 宙に舞う、僕。

(強いッ!!間違いなくッ!!)

 僕より上。

 そう確信させるほどの。


■速度と技術が混ざり合った友の動き■


 メリッサに匹敵するんじゃ!?

「マジッ!?」

 そんな筈は!?差が開いていたのかッ!!こんなにッ!?

「くそがッ!!」

 地に、足が着く。

 勢いを止める為、地面を抉りながら、体勢を整える。

(を、待ってくれないよな!!)

 整えている間に、突進を仕掛けるジン太。

 右拳を引いた構えで、奴は接近してくる。

(フェイント?いいやっ!!)

 来る!!この勢いは!!このまま!!

(ブレード!!全開で!!)

 陽炎(ソル)よ、更に力をっ!!奴の攻撃を、受けられるだけの力!!


「おおっ!!」

 

 放たれた、直線の拳。

 それに合わせて、両手で木剣の盾を展開する。

(防いだ!!)

 拳を受けとめる、僕の木剣。

 だが、しかし、この、感触は!?

(腕に伝わる、衝撃!!それだけで!?)

 ぎしぎしと軋む盾と、痺れる両腕は、威力の程を分からせてくれる。

(重い――!!一撃――!!)

 それが。

 連続して、僕に襲いかかってくる。この劣勢。

「ぐっ!!はッ!!」

 両拳から、放たれ続けるラッシュ。

 一発でも当たるわけには行かず、とにかく捌き続ける。

(防ぐので、精一杯!?)

 防戦一方とは……!!

 反撃の隙が……!

(これが、あのジン太か!?)

 目の前の友人が、恐ろしい強敵に思える。

 その鋭い眼光に、少したじろぐ。

 奴め……!あっちの異海で、かなりの修羅場を越えてきたな。

(僕だって、修行はしてきた。なのに、こんな!!)

 足りなかったのか。

 欠かさずやってきたが、それ以上だったのかジン太は。

(――悔しいな)

 以前は勝てた相手に、追い抜かれる。

 そこまで熱い人間というわけではないが、やっぱり悔しい。

(ここで負けたら、ゴンザレスに続き二度目)

 先生とのは、カウントしないとして。

 大会前に負けを重ねるのは、幸か不幸か。


【また、ゴンザレスの勝ちかー】

【ロインも頑張ってっけど、やっぱ、元々の才能がな】

【……だよなぁ】

 

 ゴンザレスとの練習試合に負ける度、決意は固まっていった。

 

 決意の薪になるのなら、敗北も良し。


「――な、わけねェだろオォォォォォォォォォ!!」 

 無意味ではないんだろうが、良しとしてはならねェだろ。

 彼女が望む強い男が、負け続けでどうすんだッ!!

「まだッ!!まだアッ!!」

 回せ回せ。力を回せ。

 器を軋ませ、歯を食いしばり、底力を見せろ。

「ごォアっ!!」

「!!」

 反撃に転じろ、僕の体ッ!!

 守ってるだけじゃ、勝てない!!

「オオッ!!」

 奴の攻撃を避けながら、両手で木剣を叩き込む。

 かなりすれすれで、擦ったり、当たったりする度に、軋む僕の体。

 まともに当たれば、不味い。ストロングの精度を落とせば、即座に敗北するだろう。

「オオォっ!!」

 構わず、攻撃!!

 ひたすら、攻めろ!!

「くッ!」

 横斬りの、渾身の一撃。

 両腕のガードの上から、燃えさかる刀身をぶつけた。

(もっと、威力を)

 後退する奴の動きに合わせて、更なるブレードの上昇を!!

(捻りだし、全力で、次の一撃を――)

 炎の勢いは増し、更に僕の武器は強化されていく。

 燃えさかる炎は、しかし、一秒後には消えそうな危うさを持っていて。

 

 ならば、僕がすることは決まっている!!


「オオオオオオッ!!」

 いつかの突撃を思い出す。

 あの時も、かなりの窮地。格上との戦いだったな。

「――」

 前方に立ちふさがる、強大な壁(ライバル)。

 あの時の敵とは違い、奴は笑みを浮かべていた。

 徒労を笑う、嘲りの笑みでもなく。勝ちを確信した、慢心の笑みでもなく。

 それは、どこか嬉しそうなもので。

 笑みの意味は。

(応えねぇとな) 

 そう、思い。

 僕は、より力を込めて――。


 ――轟音が森を貫き、決着は着いた。

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