第34話 努力の理由

「……おい!!おめぇ!!道の真ん中で……大丈夫か!!」

 うーん、むにゃむにゃ。

 なんでい、こっちは眠いんだい。起こさないで、おくれよ。後、5分。いや、10分は欲しいな。

 とにかく疲れた。器を限界まで使ったんだ。当然だろ。

 ……そんなに頑張ったの、何でだっけ?

(極悪卑劣な悪の王、それを倒す僕)

 そう、こんな感じで。王道ストーリーが、展開されたような。気がしないでもない。

「し、四天王が、奴らが動き出した……!」

「四天王!?そいつらに、やられたのかよッ!?」

「ああ……!遂に、闇の機関【シャドウ・ルーム】が……!」

 僕は、四天王最弱の男に敗北し、これからパワーアップイベントを……。

 ?

 違うな?

 どうにも記憶が曖昧だ。僕は、一体?

「う……」

 重い瞼を開け、目に光を招く。

 そこに映るのは……。


「ちっ、男かよ」

「ひでぇな!おい!?」


「……ほー、つまり才獣と戦ったと。しかも、強ぇの。それで、ボロボロになりながらも、倒したと」

「おうよ……、なんとか、やれたんだ。へへ……まじ、嬉しい」

「……」

 僕を助けてくれた赤髪の男、ゴンザレス。

 こやつも、僕と同じく天上学院の遅刻組のようだ。

 野郎の固すぎる背中に背負われながら、林の中の整備された道を行く。

 本当は美少女におぶって欲しいが、贅沢は言えないぜ。

「……そりゃ、やべえな。なんで王都に、そんな危険な才獣がいんだよ……。おちおち、散歩もできねぇじゃねぇか!」

「本当だ……。訴えて良いよな……」

 ここは何の変哲もない、ただの林の筈だ。あんなヤバヤバの獣がいるなんて、聞いていない。

 考えられる可能性としては……。

「学院、か?」

 そう、天上学院。僕が今日、入学する場所。

 あそこでは才獣に関する授業の為に、実際にそれを扱う。

 だが、あの学院の化け物教師陣が、みすみす才獣の脱走を許すとは考えづらい。例え相手が、脅威才獣だとしてもだ。

 ……後は、才力の研究所とかか。

「研究所は、謎の塊だかんなー!なんとも、言えねぇ」

 そう、謎に包まれまくっている。場所すら定かではない。

「……でもよ、ゴリラの才獣と戦ったって言うが、どこに行ったんだ?」

「……」

 倒れた筈の才獣は消えていた。

 倒したような記憶は、朧気だが、ある。

 それなのに。

「夢でも、見てたんじゃねぇか?」

「んな、アホな。じゃあ、僕は一人で勝手にズタボロ雑巾になったと」

 夢だと。

 あの死闘の記憶が全部夢とか、許されざるよ。戦争だよ。

 いきなりゴリラと遭遇、そのまま戦闘。なんて、夢みたいではあるがな。

 事実の方が奇妙だ。そう言ってた奴がいたが、共感できちまう。

「どっか、行っちまったのかもな。先に、起き上がって……学院に、言わねぇと!」

「……ないんじゃ、ないか。それは」

 あれほどの勢いで襲ってきた才獣が?僕の力を警戒して?

(足跡は、あった)

 戦った痕跡だって残っていた。土は荒れ、抉れ、倒れた木々だってあったのに。

(なかったのは、去った痕跡)

 舞い落ちる落ち葉が、僕達の前を横切った。

 近くの木々に、ジャンプ……できるのか。ダメージを受けた状態で。それにしたって、残るものはあるし。

(故意に痕跡を消したとしたら……)

 人間並みの、知能。

 戦い方を思い出す限り……それは、感じなかった。

 バランス型、だろうしな。ブルーは、だいたいそうだ。

 あの才獣は、それほどの知能は有してないはず。


 なら、人間が才獣を回収したとか。


【がちゃり。かちかち】


(――闇の、機関!)

 隠された陰謀、埋もれた真実、日々の妄想で培われた、想像力!フル回転!僕が辿り着いた、一つの真実。

「……なら、誰かが持っていったか。才獣を。……秘密組織とか、んてな!」

 お前もかよっ!まさか、同士っ!?

「いやー、むっかしは、良くそんな話を考えてたな!家の、床裏に隠してあるぜ。その時の産物!」

 かつての同士か……!裏切り者め!その程度の妄想力では、高みには上れない!

「親に見つからないか、冷や冷やもんだぜ!回収するの、忘れちまってよ!オレの村、結構離れた南の方だから、簡単に戻れないしな」

「……そんな所から、わざわざ天上学院まで来たのか」

「まーな!今は、寮暮らし!……おめぇ、リィドさんのこと知ってるだろ!?」

 リィド?

 あの、リィド・マルゴスか。

 戦士団所属、数多の成果を残し、脅威才獣の討伐実績もある戦士。

「知ってんな。有名じゃんよ」

「だよなー!!戦士団の、リィド・マルゴス!!オレの憧れだッ!!」

 ゴンザレスの声の調子が急激に上がった。何かのスイッチが入ったようだ。めっちゃ、うきうきしてんな。

 顔は見えないが、子供のように目を輝かせているのは、なんとなく分かる。経験則だ。

「憧れなんか。そういう奴は、結構多いな」

「そうだっ!!……同時に、恩人でもある」

「恩人?」

「昔、ちょっとな。……だから、オレは頑張らなきゃ」

 どうやら何か事情があるようだ。それを深く聞こうとは、思わないが……。

(恩人の、為にか)

 金髪の、女性が。

 僕に、とっての。

 

「分かるかもな。その気持ち」


 入学式の日に会った、強面の男。

 ちょっとした親近感を感じながら、それぞれの目的に向かい、歩く。

 ――こいつとは、仲良くできそうだ。


●■▲


■天上学院・校門前へと走る■


「すっかり遅れちまったな」

 学院を囲む石塀にそって走るゴンザレス。

「悪ィ」

 彼等の視界で、学院の校門が大きくなっていく。

「これも何かの成り行きだ。気にすんなよ」

 校門前は静かで、教員と思われる二人の人物以外の人影がなかった。

「お」

 彼等の前には誰もいない。


【学院の制服を着た・中背の少年を除いて】


「……」

 歩く銀髪の少年を、無言で追い抜くゴンザレス。

(この野郎。なんて目をしてやがる)

 横目でちらりと確認した少年の顔を見て、ゴンザレスは背筋を凍らせた。

(何度か見た覚えがある――命を奪った奴の目だ)

 

(よーし、これから僕のハーレム学園生活スタートってわけだっ)

 背負われたロインは不穏な気配など気付かず、これから始まる学院生活に想い馳せる。

(まあ、しかし)

 しかし、彼の目標は既に強く定まっていた。

(――【頂】以外、眼中にねェけどな)


■それぞれの想いが交差し、ここから始まる■

■二度の敗北を得て、灼熱の少年は失意に沈む■

■最後の機会に、太陽に届くことを信じながら■

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