第四話 風門流抜刀術


 まるで不意打ちを予期していたかのように、大地の体はひょいと後方に跳んで刺突をかわした。


「やるな、山猿」


「いきなしは卑怯だべ。ヒゲのおっさん」


 大地は刀架に懸かった木刀のひとつを手にとると、びゅっと素振りをくれた。


熊坂くまさかどの!」


 取り巻きの二人が前にでて木刀を構える。


「すっこんでろ!」


 熊坂と呼ばれた大男は二人に一喝すると、後ろへ下がらせた。


「では、見せてもらおうか、風門流ふうもんりゅうとやらを」


 熊坂が上段に構える。

 と――

 大地は木刀を左腰にひきつけ腰を沈め、居合いに構えた。


(木刀で居合いだと?)


 熊坂が眉をひそめる。居合いは真剣が鞘のなかに入ってこそ、威力がますものだ。

 鞘のなかに入っていない抜き身の木刀で居合い特有の速度がでるとは思えない。


(にわか仕込みの虚仮威こけおどしか)


 熊坂が上段の構えのまま一歩踏み出した。まだ、間境まざかいの外である。


風門流抜刀術ふうもんりゅうばっとうじゅつ――つむじ!!」


 大地が叫んだ。叫びと同時に引きつけた木刀を抜き放つ!


(バカが、焦ったか!)


 当然、大地の木刀は熊坂に届かない。

 熊坂が勝利を確信した、そのとき――


「なにィ!!」


 形を持たぬ無形のなにかが熊坂に襲いかかった。



   第五話につづく



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