9話、vs女子大学生

 最近、良い事が続いて毎日が楽しいわっ。猫のぬいぐるみであるニャーちゃんを拾ってから、寂しい思いをする日が減ったし、お金を拾ってポップコーンがいっぱい食べられた。


 もしかしたらニャーちゃんは、幸運の招き猫なのかもしれないわね。


 ……となると。今電話をすれば、まともな人間に掛かって驚かせる事が出来るかもしれない。よーし、そうなったら善は急げよ! 早速掛けてみよっと。


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「もしもし?」


「私、メリーさん。いま、公園にいるの」


「えっ? め、メリー、さん? あなたはいったい―――」

 

 ピッ。


 きた、これは久々に来たっ! なかなか良い反応だったじゃないの。出前じゃない、繰り返し同じ事を言うような変な奴じゃない。そして、全然怖そうじゃない人間の女の声っ!

 やっと、やっと清美きよみ以外にまともそうな奴に掛かったっ! それじゃあ家に近づいていって、再び電話をしてやろっと。

 この公園から、そう遠くない場所に今の女の家があるみたいね。なら、ここいらでまた電話をしてビビらせてやろうかしら。


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、プルルルルルル……、プルルルルルル……


 あらっ、電話に出ない……? もしかして、さっきの電話で怖気づいちゃったのかしら? それは困るわっ、久々の獲物だもの。お願い、出てちょうだい……!


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「……も、もしもし……?」


 出たっ! よかったぁ~。こいつ、まだ家にいるわね。よしよし。


「私、メリーさん。いま、橋の上にいるの」


「ち、近づいて来てる……! あなた……、ほ、本物のメリーさん、ですか? 私はどうする気で―――」


 ピッ……。


 ふっ、ふふふっ……、うふふふふっ。これよ、この恐怖で怯え切ってる震えた声っ。これが聞きたかったのよっ! 本物のメリーさんとか言ってたわよね。じゃあこいつは、私の事を知ってるハズ。

 それなら恐怖も倍増してるでしょうねっ! ふふふっ、こいつの部屋に行くのが楽しみだわっ! 今度は一気に近づいて、こいつのアパートの前で電話してやろっと。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 アパートの前まで来たけど、ごく普通の二階建てのアパートみたいね。それなりに年期があるのか、壁がちょっと薄汚い。階段も所々に錆が見えちゃってる。

 えっと、アパート名は……、『メゾン天狗』よしっ、合ってる。こいつの部屋は、二階の一番左の角部屋よね。……部屋の灯りが点いてるから、ちゃんと部屋にいるみたいね。感心感心っ。

 残りの電話はここで一回と、扉の前で一回の計二回。ちゃんと出てくれるかしら? さっきやたらと渋ってたから、それだけが心配なのよね。


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「私、メリーさん。いま、あなたのアパートの前にいるの」


「……ねえ、やめて下さいよ。な、何が目的なんですか? 私、あなたに何か悪い事でもしましたか……? お願い、来ないで……。本当はいないんでしょ? た、ただのイタズラ電話ですよね?」


 怯えてる怯えてる。ちゃんと涙声になってるし、鼻をすすってる音も聞こえてくるわっ。よし、トドメを刺してやるわよっ!


「……メゾン天狗」


「や、やだ……。本当に、来て、る? さ、流石に私の部屋までは分から―――」


「……二階の一番左の角部屋」


「あっ、合って、る……」


 ピッ……。


 絶望感に満ちたこの声、さいっこうっ! こいつっ、私が追い求めてた物を全部叶えてくれたわっ! 

 この時点でもう大満足っ! 帰ろうかしら……、ハッ!? 何を言ってるのよ私。ここからが本番よ、ちゃんと最後までやらないとっ!


 さてと、部屋の前まで来たけど、扉越しからすすり泣くような声が聞こえてくるわね。このアパート、防音がちゃんとなってないじゃない。

 隣の人に聞こえてるんじゃないかしら? 鍵は……、当然閉まってる。

 まあ、私は扉をすり抜けれるし、手をかざせば鍵は勝手に開いちゃうから、関係ない事だけどね。さあ、仕上げに入るわよっ!

 

 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「私、メリーさん。いま、あなたの部屋の前にいるの」


「ううっ、やめて、来ないでぇ……。お、お願い! こ、殺さ、ない……、で……。か、鍵が掛かってるから……、入っては、これないです、よね?」


 だ、ダメッ……。顔が自然にニヤけちゃうわっ。ものすごく嬉しいっ! 鍵ぃ〜? 関係無いって言ってるでしょ、そんな物。私が手をかざせば勝手に開いちゃうんだからっ。

 

 ガチャッ……。


「えっ!? 鍵の開く音!? な、なんでっ。なんで鍵が開いちゃうの!? や、やだぁ……。入って、来ないでぇ……」


「うふふふっ。もう、遅いわっ」


 ピッ……。


 どうしよう、ニヤけが止まらないっ! ダメよメリー! ちゃんと怖い顔をしながら部屋に入らないと! じゃないともっと怖がってくれないわっ。

 落ち着いて、落ち着くのメリー。いっぱい深呼吸をして……。ニヤけてる顔を引き締めて……。よしっ、開けるわよっ!


「ほ、本当に来た! いやっ、来ないで! お願いだからこっちに来ないで……! ……だ、誰かぁ……、助けてぇ……」


 ……ああっ、もう、もう我慢できないっ!


「んん~っ、それっ!」


「……へっ?」


「その泣きじゃくった顔! 部屋の隅っこで恐怖に怯えてるあんたっ! 全部が全部、私が追い求めていたものよっ!」


「えっ? ……えっ、へっ?」


「あんたっ、名前はなんていうの!?」


「……えっ、えと……。……あ、相原あいはら 香住かすみ、です……」


「かすみねっ、いい名前じゃない。あんた、将来大物になるわよっ! じゃっ、また来るわっ。バイバイ」


「えっ!? か、帰っちゃっ、た……。いったいなんだったんだろう、今の……。んっ? また、来る?」




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ふうっ、今日は最高の一日になったわっ。これから毎日あいつの部屋に行ってやろっと! 確か、かすみって言ってたわよね。電話帳に番号と名前を登録しておかないと。

 うふふっ。ニャーちゃんを拾ってから、本当に良い事尽くめだわっ。これから、私の快進撃の始まりよ!

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