10話-1、相原 香住の受難

 私の名前は相原あいはら 香住かすみ。今年成人式を迎えたばかりの女子大学生だ。友達は、正直に言うとまったくいません……。

 大学にさえ入ってしまえば、勝手に友達が増えていくだろうとお気楽な考えをしていた結果、完全に乗り遅れてしまい、取り残されてしまった大馬鹿者です。

 大学では一人で過ごし、週三でバイトをしていて、アパートに帰ってくればテレビや読書をして時間を潰すといった、どこにでもいるごく普通の一般人です。


 そんな普通である私が、一週間前から不可解な出来事に襲われています。切っ掛けは、とある一つの電話でした。


 メリーさんという都市伝説をご存知でしょうか? テレビや漫画などでもよく目にする、あのメリーさんです。

 いつのもようにテレビを見ていたら、突然そのメリーさんと名乗る子から、電話が掛かってきたんです。 

 そして、着信がある度に私のアパートに近づいて来たんです。本当に怖かった。気が気じゃありませんでした。しかもメリーさんは、私がいる部屋まで分かっていたんです。


 心底恐怖しましたよね。部屋の隅で怯えながら泣いていました。もちろん、扉の鍵は掛けました。だけどメリーさんは、いとも容易く鍵を開けてしまったんです。

 その時の絶望感は凄まじかったですよね。ああ、私はメリーさんに殺されてしまうんだ。そんなイヤな事が、頭の中いっぱいになりました。


 けれども、扉を開けて部屋に入ってきたメリーさんは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている私の顔を見るや否や、パァッと明るい表情になって帰っていったんです。


 呆気に取られましたよね。終いには帰り際に「あんた、将来大物になるわよ」とまで褒められたんです。……なぜ、私は褒められたんでしょうか? いくら考えても分かりません。

 ですが、そこからです。私はメリーさんに取り憑かれてしまったのか、毎日この部屋に来るようになってしまいました。


 毎日ですよ? 毎日毎日、私の怯えた表情を見ると、満足して私を褒めて帰っていくんです。意図がまったくつかめません。ただ私を驚かせたいだけなんでしょうか?


 しかし、人はいつしか慣れてしまう生き物です。一週間毎日来られると、流石に慣れてきてしまいました。


 もちろん、驚かせてくるバリエーションは毎回違いました。いきなり背後にいたり、扉をすり抜けてきたりと色々あったんです。

 ……あったんですけど、メリーさんから電話が掛かって来ると、必ずこの部屋に来る。私を驚かせるだけで、その他の害はまったく無し。そして、最後に私を褒めて帰っていく。


 毎回こうですよ、正直怖くなくなっちゃいますよね。……なりません? 極めつけは、メリーさんってよく見ると、とても可愛い子なんですよ。

 つばの広い青白い帽子をかぶっていて、帽子と同じ色をした煌びやかなドレスを着ているんです。顔は小顔だけど、どこか妖々しさがって、ちょっと吊り上がった目に、綺麗な青い瞳。

 猫のぬいぐるみを大事そうに抱えていて、帰り際に微笑みながら扉をすり抜けていくんですけど、その無邪気な笑顔もかなりキュートなんです。


 で、すっかりとメリーさんに慣れてしまった私は、今日メリーさんが来たらまったく怖がらずに「こんにちはメリーさん、また来たんですね」っと、何気なく喋ってしまいました。

 そうしたらなんと、メリーさんが逆に驚いた表情をして「えっ!? 私が怖くないの!?」っと声を上げ、私は「はい、慣れちゃいました」と、素直に返事をしました。


 そして、その言葉を聞いたメリーさんはショックを受けたのか……。今、私の目の前で泣いています。


「……ヒック……、なんでぇ……? なんで私を怖がってくれないのぉ……? この前まではすごく怖がっていたのにぃ……」


「えと、その……。ご、ごめんなさい……」


 なんで被害者である私が謝っているんだろう……? これじゃあまるで、メリーさんが被害者で、私が加害者みたいな構図になってしまっている……。

 泣いているメリーさんも可愛いな。こんな事を言ったら、もっと泣いてしまうんだろうか? とりあえず泣き止ませてあげたいけど、いったいどうすればいいのやら……。


「あの、泣くのはもう止めましょうよ。ねっ? 可愛い顔が台無しになってしまいますよ?」


「グスッ……、えっ? わ、私が……、カワイイ?」


「はい、とても可愛い顔をしていますよ」


「……あ、ありが、とう……」


 泣き止んでくれたっ!? しかも、心なしか照れている! お礼もちゃんと言ってきたし、素直な子なんだな。どうしよう、この子に興味を持ち始めてしまった。


 もしかしたら、友達になれるかもしれない。


 ……私は、なにをバカな事を考えているんだろうか。でも、悪い子じゃないのは確かだ。もう少しだけ、お喋りしてみようかな。

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