世界の中心
「そうして、雪に覆われた世界に春が戻って来たのです。白き竜は世界樹の娘を娶り、2人の間には可愛い子供が生まれました」
梢が囀る音を聴きながら、少女は母の声に耳を傾ける。暖かな母親の腕の中は少女にとって心地よくて、うとうとと眠気を誘う。
そんな少女の耳に翼のはためく音が聴こえてきた。父である白き竜が帰ってきたのだ。
「お父さんっ!」
「あ、こら、ウィッシュ!」
母の腕から抜け落ちて、少女は巨大な大樹の枝を駆ける。
ここは世界の中心。世界樹の頂だ。少女はそこで、世界樹の化身たるグラインと、白き竜であるアッシュの間に生まれた。
祖母の名を貰った彼女は、父と母の愛情を一身に受けてすくすくと成長している。
世界樹の枝からウィッシュが跳ぶ。
そこに雪に覆われた大地はなく、緑豊かな森と青い海がどこまでも続く地平が広がっていた。その大地へとウィッシュの体は落ちていくのだ。
ウィッシュの体は地に叩きつけられることなく、白い竜の背中に着地する。父である竜は、迎えに来た我が子を諫めるように低く嘶いていた。
「こら、ウィッシュ!!」
「はーい」
グラインが世界樹の上からウィッシュを呼ぶ。ウィッシュは父の嘶きと共に、母に返事を返していた。
灰の王 猫目 青 @namakemono
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