転職

 それからのタイトは、やはりあまり勝てなかった。とにかく馬と息が合わない。とはいえ、たまには勝って賞金を手にすることもあった。相変わらず酔客とのケンカも絶えなかったが。


 そしてある日。別の競技場に所属のケイタから報せがあった。


「タイト、お前んとこの競技場、潰れるらしいぜ。何ならうち来るかい?」

「いや……うん……まぁ潰れてから考えるよ。」


 競技場が、潰れる?

 どうやって暮らしていく?


 悩むタイト。しかし潰れると決まったわけではない。目の前の試合に全力を尽くすだけだ。

 そう決めた途端、タイトは生まれ変わったように勝ち続け、もはや野次を飛ばす客も、ケンカを売ってくる酔客もいなくなった。


 しかし噂は本当だった。競技場が潰れるという正式なアナウンスを受け、身の振り方を考えなくてはならなくなった。




 タイトは悩んでいた。ケイタに誘われた競技場はつわもの揃いで、今の自分ではとてもじゃないが敵わない、と。今ですら、多少は……いや、かなりマシになったとはいえ、収入源のほとんどは出場手当。その辺の客より収入が低いくらいだ。


 だが……馬と関わることを辞めたくなかった。


 悩んだ末、馬の手入れをする職に就く、そう決めたのであった。

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