第14話 看病

「はぁ……体だりぃ」


 美優とのデートを終えてから体調が優れない(決して美優を責めているわけではない)。特に今日は朝から寒気がひどく、全身に冷水をかけられている感覚に陥る。熱を測ってみると三十八度五分。……これは学校休んだ方がいいな。

 俺は枕元に置いているスマホを取って上半身だけ起こし、うつらうつらとした状態で学校に連絡して休むことを伝えた。

 

「ふぅ……うお、寒っ」


 また寒気、俺は耐えきれずベッドに寝て毛布を被った。と、その時、部屋のドアがノックされた。こんな時に誰だよ。俺は勝手に開けてくれと言って寝返りを打った。

 部屋に入ってきたのは制服姿の姉貴。あ、今日平日だから学校あるのか……ってさっき電話したんだった。

 姉貴は心配そうな顔で俺に近づき、額、首、耳など顔の周辺を触りだした。すごくこそばゆい。


「特に熱いところはないわね……熱は測った?」


 俺は頷き体温と寒気があることを伝えた。姉貴は「そう」と言って立ち上がる。


「ちょっと待ってて。冷却シート持ってくるから」


 姉貴はきびすを返して部屋を出た。看病してくれるのはありがたいが学校はいいのか?

 俺の心配をよそに姉貴は戻ってくるとすぐさま冷却シートを俺の額に貼りつけた。ひんやりとして気持ちいい。


「これで大丈夫だと思うけど……何かあったらすぐ呼んでね」

「姉貴、学校は?」

「サボるに決まってるじゃない。大事な弟が熱で苦しんでるのに呑気に学校なんか行けないわよ」


 気持ちは嬉しいがサボるな。俺のことはいいから学校に行ってくれ。

 だが風邪の影響でそんなことを言う力すらない。萌絵はちゃんと行ってるよな。

 それから俺は完全に寝てしまい、目が覚めた時には夕方になっていた。冷却シートを貼っていたおかげか、体調は朝より良くなっている。

 俺はベッドから起き上がり部屋を出たが誰もいない。姉貴と萌絵はまだ学校にいるのだろうか。


「あら、起きた?」


 背後から声が聞こえ、振り向くとそこにはレジ袋を持った姉貴の姿。まったく気配を感じなかった。つーか、どこから出てきたんだ。


「姉貴、何買ったんだ?」

「スポーツドリンク。さっきコンビニで買ってきた。あと風邪薬も」

「悪いな。色々させて」

「別にいいわよ。むしろ雄輝と二人きりになれて嬉しいわ」


 俺はゾッとした。これは何かの予兆だろうか。嫌な予感がするんだが……。

 姉貴は不敵な笑みを浮かべて俺の手を掴み、そのまま歩き出した。抵抗しようにも今の病弱な体ではどうしようもできない。姉貴は俺を部屋の前まで連行して手を放した。


「今からおかゆ作ってくるから雄輝は部屋で待ってなさい」


 てっきり襲ってくるのかと思ったが杞憂だった。俺は姉貴からスポーツドリンクと風邪薬を受け取り部屋に入る。十分ほどして姉貴がおかゆをトレーに置いて持ってきた。


「お待たせ。どう? 調子は」

「だいぶ良くなったよ。萌絵はまだ帰ってきてないのか」


 俺の言葉に姉貴は一瞬ムッとなった。あ、これ嫉妬ってやつかな。


「あの子はもうそろそろ帰ってくるわ。それより口開けて。私が食べさせてあげる」

「そこまでしなくても一人で食べれるよ。体力も回復してきたし」

「ダメよ。突然睡魔が襲ってきて寝ちゃうかもしれないじゃない」


 ねーよ。もう十分すぎるぐらい寝たわ。

 俺は自分で箸を取りおかゆを口に運んだ。……とろとろだな。ご飯粒がまったく残ってない。半分ほど食べたところで手が止まった。

 

「姉貴、すまんがもう腹いっぱいだ。これ以上は食えない」

「そう? じゃあこれ下げるね」


 姉貴は残ったおかゆをトレーに乗せる。そして部屋を出ようとしたところで下のリビングから萌絵の声と大きな足音が聞こえた。足音がこっちに近づいていきドアが思い切り開かれる。

 

「はっ! お姉ちゃんがいる。そしておかゆ!」

「萌絵、静かにしなさい。何回言ったら分かるの」

「百回ぐらい?」


 その言葉に姉貴は呆れ、盛大なため息をついた。


「萌絵、また同じような事したらご飯抜きにするからね」


 姉貴が言うと萌絵は真顔になり素直に謝った。食べ物には弱いようだ。

 

「そういえばお兄ちゃん。風邪治った?」

「ん? まだ完全じゃないけど明日には治ると思う」


 萌絵は安堵の表情を見せた後、俺をジーッと見だした。

 

「なんだ。俺に何かついてるか?」

「おでこ」


 俺は額を手で触って確認する。ああ冷却シートか。貼ってることすっかり忘れてた。もうはがそ。

 再び熱を測ってみると三十八度一分。……あれ? 下がってるけどまだ高熱じゃん。でも体は軽いぞ。この体温計壊れてんのかな。

 

「雄輝、熱下がった?」

「下がったには下がったんだけど、まだ高い」


 姉貴はどれどれと言って体温計のデジタル数字を覗き込む。


「ホントね。雄輝の体温がもともと高いんじゃない?」


 うーむ。かもしれない。でも一応安静にしといた方がいいな。熱がぶりかえす可能性もあるし……。

 不運なことにその予感は見事に的中した。風邪薬を飲んでも効果がなかったので俺は仕方なく病院に行き、薬を処方してもらいようやく回復した。

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