第12話 幼なじみとデート2

 時間は正午を過ぎ、俺と美優は公園を離れどこで昼食を食べるか話し合っていた。


「せっかくのデートなんだし、レストランはどう? おしゃれだしデートするなら一番のホットスポットでしょ」

「高校生なら喫茶店かファミレスで十分だろ。レストランは敷居が高すぎる」


 美優は「え~?」と言って不満そうに頬を膨らませた。少しは我慢しろ。

 それに、今俺の財布には三千円しか入っていない。レストランなんか行ったらいくら金が飛んでいくか……。まあ探せば安いところはあるだろうけど。


「この前行った喫茶店はどうだ? 料理絶品なんだろ?」

「私もそこにしたかったんだけど、あの店は平日しかやってないの」


 さいでっか。まあ俺の右手にファストフード店はあるが、おそらく「デートでファストフード店はちょっと……」とか言って断られるだろう。

 一応提案してみたが予想通り美優は首を横に振った。だがそうなると選択肢の幅はだいぶ狭くなる。事前に調べとけばこんなことにはならなかったんだが……完全にミスった。美優は鞄からスマホを取り出し何か調べだした。そして顔を俺に向けて言う。


「なんかこの近くに喫茶店あるみたい。すぐ先だから行ってみよ?」


 美優はスマホを手に持ったまま足早に歩き出した。俺は慌てて後ろから追う。

 着いた先にあったのは『カフェクタル』という店だった。前に行ったところと違って店構えが大きく、店内には幾何学模様の絵がいくつか飾られている。

 俺たちは空いている椅子に向かい合って座る。店員が来て俺はホットドッグ、美優はパンケーキを注文した。


「雄輝ってホットドッグ好きなんだ」

「いいや? メニュー見て一番安かったからそれにしただけだ。俺は味よりも値段重視だからな」

「うわぁ……、雄輝どんだけケチなの? デートの時ぐらいパーッと使いなよ」

「無茶言うな。こっちはそこまで裕福じゃねぇんだ。デートだからってなけなしの金をさらっと使えるかよ」


 俺の言葉に美優は大きなため息をつき、冷ややかな目で俺を見て言う。


「そんなんじゃ彼女なんて一生できないよ? ちょっとは女の子の気持ちを理解してほしいな」


 面と向かって言われると結構メンタルに来るな。だがこんなことでへこたれるわけにはいかん。


「俺は別に彼女を作ろうなんて思ってない。一人でいる方が楽なんだ」

「ふーん。あ、来た来た」


 注文した料理がテーブルの上に置かれ、美優は目を輝かせてパンケーキを一口頬張る。表情から『美味しい』というのが訊かずとも伝わってきた。

 

「これ生地がすごいふわふわで味も美味しい! やみつきになるね!」

「美優、気持ちは分かるがもう少し声のボリュームを落としてくれ、ほかにも客がいるんだから」

「あはは……ごめんごめん」


 俺は子どものような美優のハイテンションに若干引きつつ、ホットドッグを一口食べる。味は普通だな。

 量はそれほどなかったので冷める前にすべて平らげた。そして椅子にもたれかけて美優が食べ終わるのを待つ。美優はパンケーキを半分ほど食べたところで俺を見て小さく笑った。


「な、なんだよ」

「いや、なんか暇そうだなーって」

「そう思うんならさっさと食べてくれ」

「私はゆっくり味わいたいの。雄輝が食べるの早すぎるんだよ」


 しょうがねぇだろ。腹減ってたんだから。

 待ってても退屈なので俺はコーヒーを追加注文してこの先のプランを考えることにした。

 まだ金銭的に余裕はあるがなるべく金は使いたくない。となると映画館、遊園地、水族館は全部パスだ。人も多いしな。まあここで解散してもいいが美優が許さないだろう。


「雄輝、何考えてるの?」

「次の行き場所。美優はどっか行きたいとこあるか?」

「行きたいところか……私は雄輝と一緒にいられるならどこでもいいよ」


 どこでもいいは正直困る。適当に選んであとで文句言われたら面倒だからな。

 内心でそう思っていたところでコーヒーがテーブルに置かれた。俺は店員に軽く会釈してコーヒーを啜った。熱っ。舌がヒリヒリする。

 少し時間を置いてから飲めばよかったと後悔していると、美優が俺の肩を人差し指でツンツンとつついてきた。

 

「なんだ?」


 美優は無言で俺の背後にいる誰かを指差す。

 指差す先にいたのは一人の女だった。髪は腰の近くまで伸びていてやや濃いめのファンデーションとアイシャドウが塗られている。瞳が青いが多分カラコンだな。

 バレないようにやったつもりだろうが、上背うわぜいと顔つきで誰かはすぐに分かった。いつからいたんだ。

 

「私たちをつけてきたのかな」

「だと思う。こっちじっと見てるし」

「声かけてみる?」

「それはやめとけ。どうせしらばっくれるに決まってる。それに、興味本位でついてきただけだろうから気にしてもしょうがない」


 美優は「そうだね」と言って食事を再開した。

 とは言っても、つけられながらデートってのはいいものじゃない。どこで奴を撒こうか。そんなことを考えながら俺はコーヒーを啜った。

 

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